帝国データバンクや東京商工リサーチの最新統計によると、2024年の人手不足倒産は過去最多を更新し、2025年もその傾向は加速し、2026年も依然として予断を許さない状況が続いています。本記事では、人手不足倒産の定義と最新の統計データ(直近の統計データ(2024年〜2025年実績)と2026年の見通し)をもとに、その構造的な要因を徹底分析。そのうえで、自社のリスクを可視化する診断方法と、採用・定着・生産性向上・外部人材・資金繰りという「5つの防衛策」を体系的に解説します。

人手不足倒産が急増している背景と中小企業への影響
人手不足倒産とは何か定義と特徴
人手不足倒産の定義
人手不足倒産とは、主に「従業員の離職」「採用難」「人件費の高騰」などが引き金となり、事業の継続が困難になって倒産に至るケースを指します。
かつての倒産は「売上がない(仕事がない)」ことが主因でしたが、近年の人手不足倒産は様相が異なります。「需要も受注もあるのに、それをこなす人材が確保できず、売上計上できない」「人件費や外注費の高騰で利益が食いつぶされる」という、いわゆる黒字倒産に近い構造を持つ点が大きな特徴です。量的な人数不足だけでなく、事業の中核を担うキーマンの退職(質的な不足)によって、一気に経営が行き詰まるケースも増えています。
他の倒産要因との違い
人手不足倒産は、「業績不振」や「販売不振」が先にあり、その結果として人員削減に追い込まれるパターンとは構造が異なります。多くの場合、
- 求人を出しても応募がこない、有効求人倍率が高止まりしている
- 既存社員の高齢化により退職者が増える一方、新規採用が追いつかない
- 賃金や労働条件の改善要求が強まり、コスト負担が急増する
- 長時間労働や過重労働が常態化し、離職率が高まる
といった状況が重なります。その結果、受注機会を逃す・納期遅延が発生する・品質トラブルが増えるなど、売上と信用を同時に失い、資金繰りが悪化していくという悪循環に陥ります。
人手不足倒産の代表的なパターン
| パターン | 概要 | 典型的な兆候 |
|---|---|---|
| 採用難型 | 求人を出しても人が集まらず、必要な人員を確保できないことで受注や店舗運営に支障が出るタイプ | 欠員補充ができない、募集期間の長期化、採用単価の上昇 |
| 離職多発型 | 長時間労働や低賃金、職場環境の問題により、特定部署や若手社員を中心に退職が相次ぐタイプ | 特定のポジションの常時欠員、短期離職の増加、職場の雰囲気の悪化 |
| 高齢化・承継難型 | 現場のキーパーソンや職人、経営者自身が高齢化し、後継者や若手人材を確保できないタイプ | 70代の現場責任者が多い、技術伝承が進んでいない、後継者不在問題 |
| コスト高騰型 | 人件費や採用コストの上昇に耐えられず、利益が圧迫され資金繰りに行き詰まるタイプ | 最低賃金改定への対応負担、残業代増加、人材紹介料の負担感 |
これらのパターンは単独で起こることもありますが、採用難・離職増・高齢化・人件費上昇が同時進行することで、倒産リスクが一気に高まる点が中小企業にとって大きな脅威となっています。
統計データから見る人手不足倒産の現状と今後の見通し
人手不足関連倒産の増加傾向
2024年から2025年にかけて、人手不足倒産は明確な増加トレンドにあります。 大手信用調査会社の帝国データバンクおよび東京商工リサーチの調査によれば、2024年の人手不足倒産件数は統計開始以来の過去最多を記録しました。さらに2025年に入ってもその勢いは衰えず、年間で400件を超えるペースで推移しています(※帝国データバンク・東京商工リサーチ 各調査データより)。
特に目立つのが、2024年4月から建設業や物流業に適用された時間外労働の上限規制、いわゆる「2024年問題」の影響です。限られた人員と労働時間内で業務を回しきれなくなった中小企業が、事業継続を断念するケースが相次いでいます。これは一過性の現象ではなく、日本経済全体の労働供給制約が限界に達しつつあることを示す構造的な変化といえます。
労働力人口の構造的な減少
人手不足倒産が高止まりする最大の要因は、生産年齢人口(15〜64歳)の構造的な減少です。総務省の推計によれば、日本の生産年齢人口は今後も減少の一途をたどり、2040年には現在より1000万人以上減少すると予測されています。
この人口動態に加え、以下の要因が事態を深刻化させています。
- 賃上げ競争の激化:大手企業の大幅な賃上げに中小企業が追随できず、人材が流出する
- 雇用の流動化:若手だけでなく中堅層もより良い条件を求めて転職する動きが活発化
- 高齢社員の引退:これまで現場を支えてきた団塊ジュニア世代等の高齢化・引退
つまり、「待っていれば人が来る」時代は完全に終わり、選ばれる企業にならなければ存続できない時代に突入しています。
働き方改革・法改正の影響
一方で、働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制や年5日の年次有給休暇の取得義務化など、労働時間管理に関するルールが一段と厳格化されています。これ自体は健全な労働環境を整備するうえで重要な取り組みですが、
- 残業や休日出勤で人手不足を補う従来型の運営スタイルが通用しにくくなる
- 新たなシフト体制の構築や人員補充が必須になるが、採用が追いつかない
- 管理部門の事務負担が増え、現場のマネジメントにも余裕がなくなる
といった形で、現場の人手不足を一層深刻化させる要因にもなり得ます。特に、長時間労働が常態化してきた業界にとっては、法令遵守と業務継続の両立が大きな経営課題となっています。
今後の見通しと中小企業への示唆
これらの状況を踏まえると、今後も、
- 人手不足を背景とした倒産・休廃業・事業譲渡の増加
- 採用活動における「売り手市場」の継続
- 人件費の上昇と生産性向上圧力の強まり
といった流れは継続すると考えられます。したがって中小企業は、「今は何とか回っているから大丈夫」と先送りせず、人員体制とビジネスモデルを同時に見直す必要があると言えます。
人手不足が特に深刻な業種と地域の傾向
人手不足が深刻な業種の特徴
2024年・2025年のデータを見ると、人手不足倒産は特定の業種に集中しています。特に深刻なのが「建設業」と「物流業(道路貨物運送業)」です。これらは労働集約型でありながら、長時間労働規制(2024年問題)の直撃を受けた業種です。
| 業種 | 2024-2025年の傾向とリスク要因 |
|---|---|
| 建設業 | 倒産件数最多。職人の高齢化に加え、時間外労働規制により工期が長期化。完工高を確保できず資金繰りが悪化するケースが多発。資材高騰と人件費高騰のダブルパンチを受けている。 |
| 運送・物流 | ドライバー不足が深刻化。「運べない」ことによる売上減少に加え、燃料費高騰も重なる。2024年問題への対応(労働時間短縮)がコスト増を招き、価格転嫁できていない中小零細企業が淘汰されている。 |
| サービス(飲食・宿泊・介護) | インバウンド需要などで景気は回復基調にあるが、現場スタッフが集まらず「機会損失」が発生。最低賃金引上げの影響を強く受け、利益率が圧迫されている。 |
また、企業規模別に見ると、負債規模の小さい小規模事業者や、従業員10人未満の零細企業が人手不足倒産全体の約8割を占めています。これは、小規模ゆえに賃上げ原資の確保が難しく、採用競争で大手に敗北しやすい実態を浮き彫りにしています。
こうした業種では、求人を出しても応募が集まらないだけでなく、採用しても定着しにくいという二重の課題を抱えやすく、結果として人手不足倒産のリスクが高まりやすい状況にあります。
地域別の人手不足の傾向
地域別に見ると、首都圏や大都市圏は求人数が多い反面、人材の流動性も高く、待遇や働き方の選択肢も豊富です。そのため、中小企業や中小規模の事業所は、大企業との採用競争の中で人材獲得に苦戦しやすいという側面があります。
一方で、地方圏では人口減少や若年層の都市部への流出により、そもそも働き手の母数が少なくなっています。とくに、
- 過疎化が進行している地域
- 主要産業が限られている地域
- 公共交通機関が乏しく、通勤手段が限られる地域
では、求人を出しても応募が全くない、採用しても通勤負担から早期退職してしまうといった問題が顕在化しやすくなります。
業種・地域が重なるリスク
人手不足が深刻な業種と、人口減少が進む地域が重なると、人手不足倒産のリスクはさらに高まります。たとえば、地方の建設業や運送業、観光地の宿泊・飲食業などでは、
- 若手社員の採用が極めて困難
- 高齢化したベテラン社員への依存度が非常に高い
- 繁忙期と閑散期の波が激しく、短期雇用も安定しない
といった事情から、採用戦略だけでなく、事業構造そのものの見直しや、地域ぐるみでの人材確保体制の構築が不可欠になっています。
人手不足倒産が中小企業の資金繰りと経営に与えるリスク
売上機会の損失と固定費負担の増大
人手不足が深刻化すると、まず表面化するのが売上機会の損失です。たとえば、
- 受注はあるのに人員不足で新規案件を断らざるを得ない
- 予約を受けても対応できるスタッフが足りず、席数や客数を制限せざるを得ない
- 営業時間を短縮したり、臨時休業が増えたりする
という事態が起こります。その一方で、家賃やリース料、既存社員の給与、借入金の返済などの固定費はほとんど減らないため、利益が圧迫され、資金繰りが一気に苦しくなります。
現場負荷の増大と品質・安全リスク
慢性的な人手不足のもとでは、限られた人員で仕事を回さざるを得ないため、一人ひとりの業務負荷が高まり、長時間労働や休日出勤が増えがちです。その結果、
- ミスや事故の発生率が高まる
- サービス品質や商品品質が低下する
- クレームやトラブル対応にさらに人員が取られる
といった悪循環が起こります。特に、製造業や建設業、運送業など、安全性が重視される業種では、人手不足が直接的に労災事故や重大クレームのリスクにつながり、企業の信用失墜から取引縮小・解約へと発展する危険もあります。
採用・定着コストの増加と財務への影響
人手不足を補おうとすると、自然と採用コストと人件費の負担が増加します。具体的には、
- 求人媒体への掲載費や人材紹介料の増加
- 最低賃金引き上げへの対応や、他社との賃金競争による給与水準の見直し
- 入社後の育成・研修コスト
などです。これらのコストは短期的な売上増加に直結しない一方で、キャッシュアウトとして確実に資金繰りを圧迫する要因になります。
| 人手不足が引き起こすコスト | 内容 | 資金繰りへの影響 |
|---|---|---|
| 採用コスト | 求人広告費、人材紹介手数料、採用担当者の稼働時間 | 短期的な支出増、採用難が長期化すると固定的な負担に近づく |
| 人件費の増加 | 賃上げ、残業代、各種手当の増額 | 固定費として利益を圧迫、利益率の低下につながる |
| 離職・再採用コスト | 退職金、引き継ぎ工数、再採用のやり直し、教育研修の二重投資 | 想定外の追加支出が発生し、資金計画が狂いやすい |
| トラブル対応コスト | クレーム対応、人為ミスのリカバリー、品質不良の補償 | 売上減とコスト増が同時に発生し、キャッシュフロー悪化を招く |
金融機関・取引先からの評価低下リスク
人手不足が長期化し、業績や財務内容が悪化すると、金融機関や取引先からの見方も厳しくなります。たとえば、
- 決算内容が悪化し、融資条件が厳しくなる
- 納期遅延や品質問題を理由に、受注量を減らされたり、取引を見直されたりする
- 主要顧客からの信頼低下により、新規案件の紹介が減少する
といった事態が起こり得ます。とくに、「人手不足でこれ以上受注を増やせない」「後継者がいない」といった情報が金融機関に伝わると、長期融資や追加融資に慎重姿勢を取られる可能性が高まる点には注意が必要です。
最終的な倒産・廃業につながるプロセス
人手不足が原因で倒産・廃業に至るプロセスは企業ごとにさまざまですが、多くの場合、次のような流れをたどります。
- 採用難と離職増加により、慢性的な人員不足が発生する
- 既存社員の負担増からミスや品質問題が発生し、売上と信用がじわじわと低下する
- 売上減少と人件費・採用コスト増加が同時進行し、利益率が悪化する
- 資金繰りが悪化し、銀行や取引先への支払い条件が厳しくなる
- 受注制限や事業縮小を余儀なくされ、固定費負担に耐えられなくなる
- 最終的に倒産や事業譲渡、休廃業・解散を選択せざるを得なくなる
このように、人手不足倒産は、ある日突然起きるというよりも、採用力・定着力・生産性の問題が少しずつ積み重なった結果として表面化するケースが多いと言えます。したがって、中小企業にとっては、早期の段階で自社の人手不足リスクを把握し、計画的に対策を講じることが極めて重要になります。
自社の人手不足リスクを診断するチェックポイント
人手不足倒産を未然に防ぐためには、まず自社がどの程度「人手不足リスク」を抱えているのかを客観的に把握することが重要です。感覚や現場任せの判断ではなく、採用状況・離職率・年齢構成・労働時間・業務量・従業員満足度などを総合的にチェックすることで、早期に危険シグナルを察知し、対策につなげることができます。 ここでは、中小企業が今すぐ確認すべき具体的な診断ポイントを整理し、「人手不足が原因で事業継続が困難になるリスク」を可視化する方法を解説します。
採用活動の状況 新卒採用と中途採用の実態
人手不足が深刻化している企業では、「募集しても応募が来ない」「採用してもすぐ辞めてしまう」といった採用面での課題が顕在化しています。まずは、新卒採用・中途採用・パート・アルバイトなど、採用活動全体の現状を数値で把握することが重要です。 採用が計画通りに進んでいない状態が続くと、既存社員の長時間労働やサービス残業が恒常化し、それがさらに離職につながり、人手不足倒産のリスクを高める悪循環が生まれます。
採用指標を使った現状把握
採用活動の実態を客観的に評価するために、以下のような指標を整理しておくと、問題点が明確になります。
| 指標項目 | 確認内容 | 人手不足リスクの目安 |
|---|---|---|
| 応募者数 | 求人1件あたりの応募者数、新卒・中途・パート別の応募件数 | 募集開始から1か月以上経っても応募がほとんどない状態が続いていると要注意 |
| 選考通過率 | 書類選考・一次面接・最終面接のそれぞれの通過率 | 通過率が極端に低い場合は、採用基準が実態に合っていない可能性がある |
| 内定承諾率 | 内定を出した人数に対して入社に至った人数の割合 | 他社に辞退されるケースが多い場合、条件・イメージ・選考プロセスに課題がある |
| 採用単価 | 求人広告費・紹介手数料など採用にかかった総額を採用人数で割った金額 | 採用単価が急激に増加している場合、採用難度が上がっているシグナル |
| 充足率 | 計画した採用人数に対して、実際に採用できた人数の割合 | 主要部門で充足率が毎年80%を下回ると、中長期的な人手不足リスクが高い |
新卒採用が計画通りにいかない場合、将来の幹部候補や現場リーダーが不足し、事業の継続性が損なわれるリスクがあります。一方、即戦力を期待する中途採用が進まない場合、受注した仕事をこなせず売上機会を逃したり、納期遅延・品質低下が発生して取引停止や信用不安につながるおそれがあります。
採用チャネル別の効果測定
ハローワーク、民間求人サイト、人材紹介会社、自社ホームページ、SNS、リファラル(社員紹介)など、採用チャネルごとの成果を把握することも重要です。 「どこからどのような人材が採用できているか」を把握することで、限られた採用予算を効果の高いチャネルに集中させ、人手不足倒産リスクを抑えることができます。
| 採用チャネル | 主な特徴 | 確認すべき指標 |
|---|---|---|
| ハローワーク | 掲載費用がかからず、地域の求職者にアプローチしやすい | 応募者数、年齢層、地元人材の定着率 |
| 民間求人サイト | 若年層や転職希望者へのリーチが広いが、競合も多い | 表示回数、応募数、スカウトメールへの返信率 |
| 人材紹介会社 | 即戦力人材の紹介に強みがあるが、紹介手数料が発生する | 面談設定率、内定承諾率、入社後1年以内の定着率 |
| 自社ホームページ・採用サイト | 自社の強みや働き方を詳しく伝えられ、ブランディングに有効 | 閲覧数、問い合わせ数、応募フォーム送信数 |
| SNS・リファラル採用 | 社員のつながりや口コミを通じて、自社に合う人材を獲得しやすい | 紹介件数、採用数、紹介経由の定着率 |
これらの指標を毎月または四半期ごとに確認し、前年同月比や計画値とのギャップを把握することで、採用難が一時的なものなのか、構造的な人材不足につながる深刻な問題なのかを見極めることができます。
離職率と従業員の年齢構成から見える将来リスク
採用がうまくいっていても、離職率が高い状態では人員は安定しません。さらに、従業員の年齢構成に偏りがあると、数年後に退職や健康問題が集中し、人材が一気に不足するリスクがあります。 人手不足倒産を防ぐには、「今足りているか」だけでなく、「数年後にどうなるか」を見据えた人員構成のチェックが不可欠です。
離職率の把握と要因分析
離職率は、一定期間に退職した従業員数を、同期間の平均従業員数で割って算出します。とくに以下のポイントを確認することで、経営上のリスクを把握しやすくなります。
| チェック項目 | 確認内容 | リスクの見方 |
|---|---|---|
| 総離職率 | 会社全体の年間離職率 | 同業他社や業界平均と比べて明らかに高い場合は要注意 |
| 若年層の離職率 | 入社3年以内、30歳未満などの離職率 | 育成途中の人材が流出していると、将来の中核人材が不足する |
| 職種別離職率 | 営業職・技術職・製造現場など職種ごとの離職率 | 特定の職種のみ高い場合、その職場環境や上司に問題がある可能性が高い |
| 退職理由の傾向 | 自己都合退職の理由ヒアリング、退職アンケートの集計 | 長時間労働・人間関係・給与不満が多い場合、人手不足倒産の温床になりやすい |
離職率が高い状態を放置すると、採用コスト・教育コストが増大し、慢性的な人手不足に陥ってしまいます。また、現場のノウハウが蓄積されず、品質トラブルや納期遅延が増え、取引先からの信用が低下するリスクも高まります。
年齢構成と将来の退職リスク
従業員の年齢構成は、数年先の採用・教育・事業承継を考えるうえで非常に重要です。とくに、製造業・建設業・運送業・医療福祉業など、現場の技能や経験が重要な業種では、ベテラン社員の大量退職が事業継続に直結します。
以下のような視点で年齢構成をチェックし、5年後・10年後の人手不足リスクを予測します。
| 年齢層 | 確認ポイント | 人手不足への影響 |
|---|---|---|
| 20代 | 人数比率、入社年数、教育・研修の状況 | 少なすぎると将来のリーダー不足につながり、組織の高齢化が進む |
| 30代〜40代 | 中堅層・管理職候補の有無、キャリアパスの明確さ | この層が薄いと、マネジメント人材が不足し、若手育成も進まない |
| 50代〜60代 | 定年時期の分布、定年延長・再雇用の方針 | 特定の年に退職者が集中すると、一気に人手不足が表面化する |
「特定の部署だけ50代以上に偏っている」「技能を持ったベテランが数年以内に一斉に退職する見込み」などの状況は、人手不足倒産の潜在リスクです。技能承継や若手採用・育成を前倒しで進める必要があります。
業務量と残業時間の実態から分かる人員不足度合い
人手不足は、単に「人数が足りない」という問題だけではなく、「今の仕事量に対して適正な人員配置になっているか」というバランスの問題でもあります。売上や受注が伸びているのに人員が追いついていない場合、残業時間や休日出勤が増え、従業員の心身の負担が大きくなります。 過度な長時間労働は、健康問題・労災リスク・離職増加・労働基準監督署からの是正勧告など、多方面で倒産リスクを高める要因となります。
残業時間・休日出勤のチェック
労働時間の実態を把握する際には、タイムカードや勤怠システムのデータをもとに、以下の点を確認します。
| チェック項目 | 確認内容 | リスクのサイン |
|---|---|---|
| 月間残業時間 | 社員一人あたりの平均残業時間、部署別の平均 | 平均40時間超が常態化していると、人員不足または業務過多の可能性が高い |
| 残業時間の偏り | 特定の社員や部署に残業が集中していないかを確認 | 一部のキーパーソンに依存していると、その退職や病気が致命傷になりうる |
| 休日出勤の頻度 | 月あたりの休日出勤日数、代休取得の状況 | 休日出勤が慢性化している場合、過重労働やモチベーション低下が進んでいる |
| サービス残業の有無 | 実労働時間と給与計算上の時間の乖離、固定残業代制度の運用状況 | サービス残業が横行していると、法令違反により行政指導・訴訟リスクが高まる |
「最近、残業が増えてきた」と感じた段階で、人員配置や業務プロセスを見直し、受注量と人員のバランスを早めに調整することが、人手不足倒産を防ぐうえで重要です。
業務量と人員のバランス診断
残業時間だけでなく、売上高や受注件数、プロジェクト数といった業務量の指標と、人員数の推移を合わせて見ることで、中長期的な人手不足リスクが見えてきます。
| 指標 | 確認の仕方 | 人手不足リスクの見方 |
|---|---|---|
| 売上高と社員数 | 売上高の推移と正社員数の推移を年次・月次で比較する | 売上だけ増えて社員数が横ばいの場合、現場の負荷が高まっている可能性がある |
| 受注件数・案件数 | 部門ごとの案件数、1人あたりの担当件数を把握する | 担当件数が増え続けているのに増員や業務改善がない場合、品質低下が起こりやすい |
| 繁忙期と閑散期 | 季節要因やプロジェクトの山谷を把握し、繁忙期の労働時間を確認する | 繁忙期に過度な残業が集中していると、離職や事故のリスクが高まる |
| 一人当たり付加価値 | 粗利益を従業員数で割り、一人当たりの生産性を算出する | 生産性が低いまま人員だけ増やしても、利益が出ず倒産リスクが下がらない |
これらの指標を使って、「今の売上規模や受注量に対して、本来どの程度の人員が必要なのか」をシミュレーションし、必要に応じて採用・業務改善・外注活用を組み合わせて調整することが重要です。
現場の声ヒアリングとエンゲージメント調査の活用
数字だけでは見えてこない人手不足リスクを把握するには、現場従業員の声を直接聞くことが欠かせません。表面的には業務が回っているように見えても、現場では「もう限界」「このままでは続けられない」と感じているケースが少なくありません。
2.4.1 ヒアリングで把握すべきポイント
経営者・管理職が定期的に現場と対話し、以下のような内容をヒアリングすることで、潜在的なリスクを早期に発見できます。
| ヒアリングテーマ | 主な質問内容 | 人手不足のシグナル |
|---|---|---|
| 業務量の実感 | 「普段の仕事量は適正か」「繁忙期の負担はどの程度か」 | 「常に時間に追われている」「残業しないと終わらない」という声が多い |
| 人員配置 | 「人が足りないと感じる部署・時間帯はどこか」 | 特定の時間帯や工程で常に人手不足が発生している |
| 教育・引き継ぎ | 「新入社員や未経験者に十分な教育ができているか」 | 教育に手が回らず、属人化やミス・事故が増えている |
| 健康状態・メンタル | 「体調や睡眠に問題はないか」「精神的な負担を感じていないか」 | 疲労蓄積やストレスから、休職・退職の予兆が見られる |
| 職場の雰囲気 | 「上司や同僚との関係」「相談しやすさ」 | 不満はあっても言い出せず、モチベーションが低下している |
ヒアリングは、上司と部下の一対一の面談や、少人数の座談会、無記名の意見ボックスなど、従業員が率直に話しやすい形式で行うことが大切です。 単に意見を聞くだけでなく、「聞いた内容をどのように改善につなげたか」を共有することで、信頼関係が深まり、早期に危険サインが上がりやすくなります。
エンゲージメント調査で見える化する
近年、多くの企業が導入している「エンゲージメント調査」や「従業員満足度調査」は、人手不足リスクを定量的に把握するうえで有効な手段です。紙のアンケートやオンラインツールを活用し、次のような項目を定期的に測定します。
| 調査項目 | 質問の例 | 人手不足倒産との関係 |
|---|---|---|
| 仕事のやりがい | 「現在の仕事にやりがいを感じているか」 | やりがいが低い状態で業務量だけ増えると、離職リスクが急上昇する |
| 会社への信頼 | 「会社の将来性に期待しているか」「経営方針に納得しているか」 | 将来不安が強いと、優秀な社員から順に転職してしまう |
| 上司・同僚との関係 | 「職場で相談しやすい相手がいるか」 | 人間関係の悪化はメンタル不調や突発的な退職の引き金になりやすい |
| 処遇への納得感 | 「給与・賞与・評価に納得しているか」 | 業務量に見合わない処遇は、「見えない離職予備軍」を増やす |
| ワークライフバランス | 「仕事とプライベートの両立はできているか」 | 両立感が低いと、出産・育児・介護などのライフイベントを機に退職が増える |
エンゲージメント調査の結果は、部署別・年齢別・勤続年数別などで分析すると、どの部署で人手不足による不満が高まっているか、どの層が離職予備軍になっているかを把握しやすくなります。
また、外部の社労士や中小企業診断士などの専門家の助言を受けながら調査設問を設計し、結果を人事制度や働き方改革に反映させることで、人手不足リスクを経営課題として継続的にモニタリングし、早期に打ち手を講じる仕組みを構築することができます。
これらのチェックポイントを定期的に確認し、「採用」「定着」「業務量」「現場の声」の観点から総合的に診断することで、自社の人手不足倒産リスクを早期に察知し、次の段階である具体的な対策へとつなげていくことが可能になります。
対策1 採用力を強化して応募者数と質を高める
人手不足倒産を防ぐうえで、最も基本となるのが「安定して人材を採用できる状態」をつくることです。労働人口が減少し、売り手市場が続く中小企業にとって、従来と同じ感覚で求人を出しているだけでは、求める人材からの応募は集まりにくくなっています。ここでは、求人票の作成から採用サイト、求人媒体の使い分け、SNS・リファラル採用まで、採用力を高めるための具体的なポイントを整理します。
重要なのは、単に応募者数を増やすだけではなく、自社で長く活躍してくれる人材と出会う「質の高い採用プロセス」を構築することです。そのために、中小企業でもすぐに取り組める実務的な方法に絞って解説します。
求人票の見直し仕事内容と待遇条件の明確化
採用に苦戦している中小企業の多くは、求人票の内容が「2024年問題」などの法改正や市場の変化に対応できておらず、求職者に「古い体質の会社」「ブラック企業かもしれない」という懸念を抱かせているケースが少なくありません。
特に2024年4月以降、建設・物流・医師などの残業規制が適用され、求職者は「残業時間」や「休日数」に対して非常に敏感になっています。求人票に書かれている情報が曖昧だったり、実態と乖離しているような表記があると、その時点で比較対象から外されてしまいます。
応募者目線で書かれた求人票になっているかを点検する
求人票を作成する際は、経営者や人事担当者の都合ではなく、求職者が知りたい情報を、分かりやすく、具体的に記載しているかを基準に見直すことが重要です。特に次の項目は、必ず明確にしておきましょう。
| 項目 | 求職者が知りたいポイント | 記載のコツ |
|---|---|---|
| 仕事内容 | 1日の業務の流れ、自分が担当する範囲、チーム体制 | 「〇〇の補助」ではなく、「午前中は〇〇の作業、午後は△△の対応」のように具体的に書く |
| 給与・賞与 | 月給の内訳、固定残業代の有無、昇給・賞与の目安 | 基本給・各種手当・みなし残業の有無と時間数など、数字で明記する |
| 勤務時間・残業 | 始業・終業時刻、シフト、平均残業時間 | 「残業あり」ではなく、直近の平均残業時間や繁忙期の目安を示す |
| 休日・休暇 | 年間休日数、休日の曜日、有給休暇の取りやすさ | カレンダーどおりか、シフト制かなど、実情に即して具体的に説明する |
| 職場環境 | 配属部署の人数、年齢構成、男女比、雰囲気 | 「アットホーム」など抽象表現ではなく、数値や具体的なエピソードを交えて記載する |
| 成長機会 | 研修制度、資格取得支援、キャリアパス | いつ、どんな研修やOJTがあるか、資格手当の有無などを明示する |
また、求職者は「入社後のギャップ」を最も嫌います。そのため、良い面だけでなく、きつい面・大変な面も含めて、できるだけ正直に書くことが、結果として早期離職の防止につながります。「繁忙期は残業が増えるが、代わりに閑散期には有給休暇を取りやすい」など、プラスとマイナスをセットで説明すると信頼感が高まります。
ターゲット人材を具体化してメッセージを絞り込む
なんとなく「若い人がほしい」「即戦力がほしい」といったあいまいなイメージのまま求人を出すと、メッセージがぼやけてしまい、採用のミスマッチが起こりがちです。採用したい人物像を、年齢層、経験、スキルだけでなく、価値観や働き方の希望まで踏み込んで具体化することが大切です。
例えば、「未経験でもコツコツ学べる20代」「建設業界経験3年以上で現場をまとめられる人」「子育て中で時短勤務を希望する経理経験者」など、ターゲットによって求人票の表現やアピールポイントは変わります。ターゲットが明確になれば、その人に刺さる具体的なベネフィット(働くメリット)を前面に出せるようになります。
自社ホームページ採用サイトを活用した情報発信
求職者の多くは、求人情報を見つけた後に必ず自社ホームページを確認してから応募するかどうかを判断します。そのため、ホームページや採用ページが古いまま放置されていると、「更新されていない=活気がない」「情報が少ない=不安」と受け取られ、応募意欲が下がってしまいます。
人手不足倒産のリスクを抑えるためには、「採用のためのホームページ運用」という発想が不可欠です。経営者プロフィールや事業内容だけでなく、「どんな人が、どんな思いで、どのように働いているか」が伝わる情報発信を意識しましょう。
採用専用ページをつくりコンテンツを充実させる
可能であれば、コーポレートサイトとは別に採用専用ページ(採用サイト)を設けることをおすすめします。採用ページでは、次のようなコンテンツを充実させると、応募前の不安を減らし、ミスマッチを防げます。
| コンテンツ | 目的 | ポイント |
|---|---|---|
| 会社のビジョン・経営方針 | 経営者の考え方や会社の方向性への共感を得る | なぜこの事業をしているのか、中長期の目標を言葉で伝える |
| 社員インタビュー | 実際に働く人のリアルな声を届ける | 年齢・職種・入社年数の違う複数名を登場させる |
| 1日のスケジュール | 働き方や生活リズムをイメージしてもらう | 写真やタイムライン形式を使うと直感的に理解しやすい |
| キャリアステップ | 入社後の成長イメージを具体的に示す | 年数ごとに任される仕事の変化、昇格の事例を紹介する |
| 福利厚生・制度 | 安心して働ける環境であることを示す | 社会保険、退職金制度、育児・介護支援、資格支援などを一覧化する |
| よくある質問 | 応募前の不安や疑問を解消する | 残業、評価制度、試用期間、未経験者の教育などを具体的に回答する |
特に中小企業の場合、経営者の顔とメッセージをしっかり出すことが信頼につながります。「どんな社長のもとで働くのか」は、応募者にとって大きな関心事です。動画や写真を活用したメッセージは、文字情報よりも伝わりやすく、他社との違いを出しやすくなります。
スマートフォン対応と採用情報の更新頻度を意識する
求職者の多くはスマートフォンで求人情報を検索・閲覧します。ホームページや採用ページがスマートフォンに最適化されていないと、読みづらさがストレスとなり、その時点で離脱されてしまう可能性があります。レスポンシブデザインなど、スマートフォンでも見やすいレイアウトへの対応は必須です。
また、採用情報やニュースの更新日が数年前のままだと、「今は採用していないのかもしれない」「事業が停滞しているのでは」と不安材料になります。採用情報の掲載有無にかかわらず、月に1回程度はニュースやお知らせを更新し、動いている会社であることを示す工夫が重要です。
ハローワーク民間求人サイト人材紹介会社の使い分け
採用力を高めるには、自社のターゲット人材が「どこで」求人情報を探しているかを意識して、求人媒体を使い分ける必要があります。コストをかければよいというものではなく、業種・職種・地域・採用したい人数に応じて、ハローワーク、民間求人サイト、人材紹介会社などを組み合わせるのが現実的です。
ハローワークの特徴と中小企業が活用すべきポイント
ハローワークは、求人掲載が無料であり、地域の求職者が多く利用しているため、地方の中小企業や小規模事業者にとっては欠かせない採用チャネルです。一方で、求人票のフォーマットが決まっているため、差別化がしにくいという側面もあります。
| メリット | デメリット | 活用のポイント |
|---|---|---|
| 掲載が無料でコスト負担が少ない | 求人票が他社と似通いやすく差別化が難しい | 職員に相談しながら求人票をブラッシュアップする |
| 地域密着で通勤可能な求職者が集まりやすい | 若年層向けの訴求力は民間サイトに比べ弱い場合がある | 写真や会社PR欄を丁寧に書き込み、自社サイトへの導線を工夫する |
| 紹介状を通じて応募者情報を事前に把握しやすい | 応募から面接までのリードタイムが長くなることがある | 応募があったらすぐに連絡し、スピード感を持って選考を進める |
ハローワークを活用する際は、求人票の書き方を職員と一緒に見直したり、学生向けの就職説明会やミニ面接会への参加を検討したりすることで、露出機会を増やすことができます。
民間求人サイトと人材紹介会社の使い分け
インターネット上の民間求人サイトは、特に20代〜30代の転職者や第二新卒、アルバイト志望者が多く利用しており、スマホでの検索・応募が当たり前の世代にアプローチするには必須です。近年では、従来の掲載課金型だけでなく、採用できた時だけ費用が発生する成果報酬型や、特定業界に特化した職種別サイトも増えています。
人材紹介会社は、成功報酬型で採用が決定したときに紹介料が発生する仕組みが一般的です。紹介料は高額ですが、採用要件に合った候補者を絞り込んで紹介してもらえるため、採用担当者の工数を削減できます。専門職や管理職、経験者採用など、ピンポイントで人材がほしい場合に向いています。
| 媒体 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 総合型求人サイト | 応募者数を増やしたい、複数職種を同時に募集したい場合 | 写真・求人コピー・特集枠などで他社との差別化を図る |
| 専門職向け求人サイト | ITエンジニア、医療福祉職、建築技術者など専門人材を求める場合 | 対象職種に合ったサイトを選ばないと応募が集まりにくい |
| アルバイト・パート向けサイト | シフト制のスタッフを多めに採用したい小売・飲食・サービス業 | 時給やシフトの柔軟性、通勤のしやすさを前面に出す |
| 人材紹介会社 | 即戦力人材、管理職候補、専門職を1名〜少人数採用したい場合 | 紹介料率や返金規定、独占募集の有無など契約条件を確認する |
中小企業がこれらの媒体を活用する際は、1つの媒体だけに頼らず、複数のチャネルを組み合わせることが重要です。例えば「ハローワーク+自社サイト+アルバイトサイト」「人材紹介会社+専門職サイト」など、採用したい職種や急ぎ度合いに応じて最適な組み合わせを検討しましょう。
中小企業でも実践できるSNSとリファラル採用の活用
近年、人材採用の現場では、求人媒体に掲載するだけでなく、SNSやリファラル採用(社員紹介制度)を活用する動きが広がっています。特に人手不足が深刻な業界では、限られた採用予算の中で、自社の魅力を継続的に発信し、共感してくれる人材と出会うことが重要です。
SNSで「働く姿」を発信し会社のファンを増やす
XやInstagram、FacebookなどのSNSは、会社の日常や雰囲気を手軽に発信できるツールです。求人広告のような「採用モード」の投稿だけでなく、普段の仕事風景やイベントの様子、研修の様子などを定期的にアップすることで、会社のファンを増やすことができます。
特に中小企業や地方企業にとっては、「どんな人が働いているのか」「現場の空気感」が伝わることが、大企業との差別化ポイントになります。SNS運用の際は、次のような点を意識すると効果的です。
| ポイント | 具体的な内容 |
|---|---|
| 投稿頻度 | 週1回以上を目安に、無理のないペースで継続する |
| 投稿内容 | 仕事風景、社員紹介、研修・勉強会、地域イベント参加などを写真付きで紹介する |
| 採用情報 | 募集開始時には、求人内容や応募方法を分かりやすく告知する |
| トーン・マナー | 過度な自慢や誇張は避け、等身大で誠実な発信を心掛ける |
| 個人情報・機密情報 | 顧客情報や社外秘情報が写り込まないようチェック体制を整える |
SNSを通じて会社を知り、数か月〜数年後に応募につながるケースも少なくありません。短期的な応募数だけでなく、中長期の採用ブランディングとして位置付け、計画的に運用することが大切です。
リファラル採用で「紹介したくなる職場」をつくる
リファラル採用とは、社員や知人の紹介によって人材を採用する手法です。2024年以降、採用コストの高騰や求人メディアの競合激化を受け、コストを抑えつつ質の高い人材を確保できる手段として、中小企業でも導入が進んでいます。
ただし、リファラル採用は「制度をつくれば自然に紹介が集まる」というものではありません。紹介が増える前提として、社員自身が「この会社で働いてよかった」「知人に勧めたい」と思えるエンゲージメントの高さが不可欠です。そのうえで、次のような仕組みづくりを検討しましょう。
| 施策 | ねらい | 実施のポイント |
|---|---|---|
| 紹介インセンティブ | 社員が積極的に知人を紹介するきっかけをつくる | 入社時・一定期間在籍後に謝礼を支給するなど、段階的な仕組みにする |
| 募集情報の共有 | どの職種で、どんな人を探しているかを社内で共有する | 社内掲示板や社内SNSで、求人内容と応募方法を定期的に案内する |
| カジュアル面談 | 紹介された知人と気軽に話せる場を設け、応募のハードルを下げる | 選考ではなく「会社説明+相談」の場であることを明確にする |
| 紹介しやすい資料 | 社員が説明しやすいように会社紹介資料を用意する | 会社概要、仕事内容、働き方を簡潔にまとめたパンフレットやPDFを作成する |
リファラル採用は、採用と定着の両方に良い影響を与える仕組みです。紹介者は自分が勧めた相手が活躍することでモチベーションが高まり、紹介された側も「知り合いがいる安心感」によって職場に馴染みやすくなります。結果として、人手不足倒産の引き金となる「短期離職の連鎖」を予防する効果が期待できます。
以上のように、求人票、自社ホームページ・採用サイト、求人媒体の使い分け、SNSとリファラル採用を総合的に見直すことで、中小企業であっても応募者数と応募者の質を大きく改善することが可能です。採用力を高める取り組みは、時間と手間がかかりますが、結果として人手不足倒産のリスクを大きく引き下げる「先行投資」として位置付けることが重要です。
対策2 定着率を高め人手不足倒産を防ぐ職場づくり
人手不足倒産の多くは、採用難だけでなく、既存従業員の離職による人員流出が引き金になります。つまり、「採用する力」だけでなく「辞めさせない力(定着させる力)」を高めることが、中小企業が人手不足倒産を防ぐうえで最も費用対効果の高い対策です。ここでは、給与・評価制度、働き方改革、柔軟な勤務形態、コミュニケーションとリーダー育成といった複数の側面から、具体的な職場づくりの手順を整理します。
給与賞与と評価制度の見直しによる不満の解消
人が辞める最大の理由は依然として「給与」や「人間関係」ですが、近年は「将来性への不安(リスキリング機会の欠如)」や「心理的安全性(話しやすさ)」を重視する傾向が強まっています。2024年の物価高騰を受け、実質賃金が目減りする中で、従業員が「この会社にいても生活が豊かにならない」と感じれば、離職の連鎖は止まりません。
まずは、「賃上げ促進税制」などの優遇措置を活用しながら、可能な範囲でベースアップ(ベア)や定期昇給を実施することが、従業員への誠意あるメッセージとなります。ただし、原資には限りがあるため、一律の賃上げだけでなく、役割や成果に応じた評価制度の透明化がセットで求められます。
| 見直し項目 | 具体的なポイント | 従業員に与える効果 |
|---|---|---|
| 基本給 | 職種・職責ごとにレンジを設定し、昇給の基準を文書化する。地域の最低賃金や同業他社の相場を定期的に確認し、極端な乖離がないか確認する。 | 「自分の給与がどのように決まっているか」が分かりやすくなり、将来の見通しが持てるようになる。 |
| 各種手当 | 役職手当、資格手当、技能手当、住宅手当、家族手当など、会社の経営方針に合うものを選択し、支給条件を明確にする。 | 会社が「どの能力・どの貢献を重視しているのか」が伝わり、スキルアップや責任ある仕事へのチャレンジを後押しできる。 |
| 賞与 | 会社業績連動分と個人評価連動分のバランスを決め、計算方法を従業員に説明する。赤字の場合の取り扱いも事前にルール化する。 | 会社の業績と自分の成果がどの程度反映されているかを理解でき、経営に対する当事者意識が高まる。 |
| 昇給・昇格 | 求める能力・行動を「等級制度」「職務基準書」などで整理し、評価結果が昇給・昇格にどうつながるかを可視化する。 | 「何を頑張れば評価されるか」が分かることで、長期的なキャリア形成をイメージしやすくなり、定着率向上につながる。 |
評価制度については、複雑な人事評価シートを一気に導入するのではなく、まずは「評価項目を絞り込み」「評価面談でフィードバックを行う」という2点から始めることが現実的です。たとえば、「業務遂行力」「顧客対応」「チームワーク」といった3〜5項目に絞り、上司と部下が年2回程度、評価と今後の期待を話し合うだけでも、従業員の納得感は大きく変わります。
また、中小企業では社長の一存で昇給・賞与が決まりがちですが、その場合も「売上目標の達成状況」「粗利率の改善」など、経営指標との関連性を示しながら説明することで、従業員は会社の事情を理解しやすくなります。説明責任を果たし、評価のプロセスを透明化することが、人材流出を防ぎ人手不足倒産リスクを下げる重要な一歩です。
長時間労働の是正と有給休暇取得促進の取り組み
人手不足が続くと、どうしても現場の長時間労働に頼りがちになります。しかし、恒常的な残業や休日出勤は、心身の負担を高めるだけでなく、離職やメンタルヘルス不調を通じて、さらに人手不足を加速させる悪循環を招きます。結果として、突然の退職や休職が重なり、受注をこなせなくなって資金繰りが悪化し、倒産リスクが一気に高まるおそれがあります。
長時間労働を是正するには、「働き方改革関連法」や「36協定」などの法令を守ることは前提として、現場の業務設計を根本から見直す必要があります。まずは、部署ごと・職種ごとの残業時間の実態を把握し、どの時間帯・どの業務に負荷が集中しているのかを見える化します。そのうえで、次のような具体的な打ち手を検討します。
- 繁忙期と閑散期を把握し、シフトや人員配置を見直す
- 属人化している仕事をマニュアル化し、複数人で対応できる体制にする
- 会議・書類作成・社内報告など、付加価値の低い業務を削減・簡素化する
- 受注量が能力を明らかに超える場合は、思い切って受注制限を検討する
有給休暇については、法律で年5日の取得が義務化されている一方で、現場では「忙しくてとても休めない」「代わりがいない」という声が根強くあります。ここを放置すると、表面上は出社していても疲労が蓄積し、パフォーマンス低下や事故・ミスの増加につながります。
| 取り組み内容 | 実施のポイント | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 有給休暇の計画的付与 | 年度初めに取得計画を立て、閑散期に休みを集中させる。社内カレンダーで共有し、業務の平準化を図る。 | 「休めない雰囲気」を解消し、計画的に人員をやりくりできるようになる。 |
| ノー残業デーの設定 | 週1回など、全社共通で残業を原則禁止する日を決める。経営層や管理職が率先して退社することが重要。 | 勤務時間内で仕事を終わらせる意識が高まり、ダラダラ残業の削減につながる。 |
| 業務のバックアップ体制 | 担当者不在時の代行者を事前に決めておき、担当業務の手順書を整備する。 | 「自分が休むと周りに迷惑がかかる」という心理的な負担を軽減できる。 |
| 残業理由の定期的な振り返り | 月次で残業時間の多い部署・社員について、原因を分析し、業務改善や人員増強の必要性を検討する。 | 構造的な業務過多を早期に発見し、倒産リスクにつながる深刻な長時間労働を防止できる。 |
長時間労働の是正と有給取得の促進は、「コスト」ではなく「人材投資」と捉えることが重要です。心身ともに余裕がある状態で働ける職場ほど、ミスや事故が減り、サービス品質が安定し、生産性も向上します。その結果として、顧客満足度が高まり、受注の安定・単価の改善につながり、倒産リスクの低減にも直結します。
中小企業でも実現できる柔軟な働き方テレワークフレックスタイム
柔軟な働き方は大企業だけのものと思われがちですが、中小企業においても、業務内容に応じてテレワークやフレックスタイムを組み合わせることで、採用力と定着率の両方を高めることが可能です。特に、子育てや介護、通院など家庭事情を抱える従業員にとって、働き方の選択肢があるかどうかは、退職を思いとどまるうえで大きな判断材料になります。
テレワーク導入にあたっては、全職種を一度に対象とする必要はありません。まずは、営業事務、経理、人事、設計、システム開発など、パソコンとインターネット環境があれば対応可能な業務から部分的に始める方法が現実的です。出社と在宅勤務を組み合わせたハイブリッド型にすれば、コミュニケーション不足への懸念も和らぎます。
フレックスタイム制についても、コアタイムを短めに設定し、出退勤時間の前後を柔軟にするだけでも効果があります。たとえば、子どもの送迎時間に合わせて始業時間を1時間遅らせたり、通勤ラッシュを避けて出社したりすることで、従業員のストレス軽減につながります。
| 制度 | 中小企業での導入例 | 導入時の注意点 |
|---|---|---|
| テレワーク | 週1〜2日の在宅勤務を認める。繁忙期は出社日を増やし、閑散期は在宅日を増やすなど、時期によって運用を変える。 | 情報セキュリティ対策(社外持ち出し禁止資料のルール化、VPNやクラウドサービスの活用)と、業務報告のルールを明確にする。 |
| フレックスタイム制 | コアタイムを10時〜15時とし、それ以外の時間帯で始業・終業を従業員が選べるようにする。 | 勤怠管理システムやタイムカードで労働時間を正確に把握し、36協定の範囲内で運用する。 |
| 時短勤務 | 子育て・介護を理由とした時短勤務制度を設け、フルタイム復帰へのステップとして活用する。 | 賃金や社会保険の取り扱いを事前に説明し、他の従業員との不公平感が出ないように配慮する。 |
| シフト制の柔軟化 | 飲食・小売・介護などで、短時間シフトや曜日限定勤務を導入し、学生・主婦・シニア層の参画を促す。 | 急な欠員が出た場合の代替要員をあらかじめ確保し、シフト作成を前倒しで行う。 |
柔軟な働き方制度を導入する際には、制度そのものだけでなく、「利用しやすい雰囲気づくり」も同時に行うことが不可欠です。上司がテレワークやフレックスを積極的に活用したり、制度利用者を評価で不利に扱わないことを明言したりすることで、「制度はあるが使いづらい」という状態を避けられます。
結果として、子育て世代やシニア人材、地方在住者など、多様な人材が長く働き続けられるようになり、採用難のなかでも安定した人員確保が可能になります。これは、人手不足倒産を防ぐうえで非常に大きな武器になります。
心理的安全性の確保とキャリア支援
「給与や休みは増えたのに、若手が辞めていく」――そんな悩みを持つ企業に欠けているのが、「心理的安全性」と「成長実感」です。パワハラ・セクハラ防止はもちろんのこと、上司と部下が本音で話せる関係性がなければ、従業員は孤独感を深め、ある日突然退職願を出します。
心理的安全性を高めるには、リーダーが「聴く力」を磨くことが第一歩です。1on1ミーティングを「進捗管理の場」ではなく「部下の悩みやキャリアを聞く場」として運用するなど、対話の質を変える必要があります。また、リスキリング(学び直し)への支援も重要です。資格取得費用や研修受講料の補助は、採用時のアピールポイントになるだけでなく、「会社が従業員の成長を応援している」という強いメッセージとなり、定着率向上に寄与します。
- 毎日のあいさつや声かけを欠かさない
- 部下の小さな成果や努力をその場で認めて言葉にする
- ミスを責めるのではなく、原因と再発防止策を一緒に考える
- 月1回の1on1ミーティングなど、個別面談の時間を設ける
- 仕事の指示を出す際に、目的とゴールをセットで伝える
また、社内コミュニケーションの活性化は、「飲み会」や「社内イベント」の有無だけではありません。業務上の情報がスムーズに共有され、誰が何をしているのかが分かる状態をつくることが、ストレスや不信感の軽減につながります。そのために、中小企業でも次のような工夫が有効です。
| 施策 | 具体的な内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 朝礼・終礼の見直し | 単なる号令や訓示ではなく、当日の予定共有や成功事例の共有の場として活用する。 | 部署間の連携がしやすくなり、仕事の重複や抜け漏れが減る。 |
| 1on1ミーティング | 上司と部下が月1回程度、業務・キャリア・働き方について30分程度話し合う場をつくる。 | 不満や不安を早期に吸い上げ、離職につながる前に対策を打てる。 |
| 社内掲示板・社内報 | 紙・メール・社内SNSなどで、経営方針、業績状況、表彰、福利厚生情報などを定期的に発信する。 | 会社の方向性が伝わり、従業員が経営を身近に感じられるようになる。 |
| 新人フォロー制度 | 新入社員や中途採用者にメンターや教育担当をつけ、業務だけでなく会社のルールや人間関係についても相談できる体制をつくる。 | 入社後3か月〜1年の早期離職を防ぎ、採用コストの無駄を減らせる。 |
経営者や管理職は、従業員エンゲージメント調査やストレスチェックの結果なども参考にしながら、組織の課題を把握していくことが重要です。その際、アンケート結果を共有するだけで終わらせず、「なぜこの結果になったのか」「どのような改善策を取るのか」を現場と一緒に考え、実行までつなげるプロセスが欠かせません。
こうした地道な取り組みを積み重ねることで、「この会社で働き続けたい」「大変でも仲間と一緒に乗り越えたい」と感じる従業員が増え、採用難のなかでも人材が定着する強い組織が育っていきます。その結果として、急な退職や人員流出による受注停止・納期遅延といった事態を避けられ、人手不足倒産のリスクを大きく引き下げることができます。
対策3 生産性向上と業務削減で人手不足リスクを下げる
人手不足倒産を防ぐためには、「人を増やす」だけでなく、今いる人員で最大限の成果を出せる体制をつくることが不可欠です。採用難が続く中小企業にとって、生産性向上と業務削減は、売上やサービス品質を維持しながら人手不足リスクを抑える最も現実的な対策の一つです。
ここでは、日々の業務の見える化から、ITツールや外注の活用、補助金・助成金を活かした設備投資・DX(デジタルトランスフォーメーション)まで、中小企業でも実行可能な具体策を整理して解説します。
業務可視化とムダな仕事の洗い出し
生産性向上の出発点は、「どの業務に、誰が、どれくらい時間をかけているか」を正確に把握することです。感覚だけで「忙しい」「人が足りない」と判断しても、どこを改善すべきかが見えず、対策が場当たり的になってしまいます。
まず、部署単位・担当者単位で主な業務を書き出し、所要時間や頻度を整理します。エクセルなどの表計算ソフトを活用し、以下のような「業務棚卸し表」を作成すると、ムダや偏りが見つけやすくなります。
| 業務名 | 担当者 | 頻度 | 1回あたりの時間 | 月間合計時間 | 付加価値の高さ | 見直し方針 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 請求書発行 | 事務A | 月4回 | 2時間 | 8時間 | 中 | ITツール導入で自動化検討 |
| 日報の手書き記入 | 現場全員 | 毎日 | 15分 | 約50時間 | 低 | フォーマット簡素化・入力方法変更 |
| 会議(週次ミーティング) | 営業部 | 週1回 | 1.5時間 | 約6時間 | 中 | 議題の事前共有・時間短縮を検討 |
このような棚卸しを行ったうえで、次の観点から業務を分類します。
- やめるべき業務:目的が不明確な資料作成、ほとんど読まれていない報告書、形骸化した会議など
- 減らすべき業務:頻度を下げても支障がないチェック作業、二重入力、過剰な検査や承認フローなど
- 任せる・分ける業務:特定の人に集中し属人化している業務、担当者のスキルに依存している業務
- 強化すべき業務:売上・利益に直結する営業活動、顧客対応、新商品の開発などコア業務
特に、属人化している業務は人手不足倒産の大きなリスクです。特定の担当者が退職・休職しただけで、現場が回らなくなる可能性があります。マニュアル整備や動画マニュアルの作成、ジョブローテーションによる複数人での業務習得を進め、誰かが抜けても業務が継続できる体制を整えましょう。
また、会議や報告の見直しも有効です。議題が曖昧な会議や、意思決定ではなく単なる情報共有に終始する長時間会議は、生産性を大きく下げます。会議の目的を「決定」「共有」「相談」に分け、目的に応じて時間と参加者を最小限にするだけでも、相当な時間削減につながります。
ITツール・生成AI・補助金の活用による業務自動化
業務のムダを洗い出したら、次はITツールや生成AI(ChatGPT等)を活用した徹底的な省力化です。従来、IT化には多額の費用がかかりましたが、現在はサブスクリプション型の安価なクラウドサービスや、高性能なAIツールが普及し、中小企業でも導入しやすくなっています。
さらに、2024年・2025年は、人手不足対策として国が強力な支援を行っています。特に注目すべきは「中小企業省力化投資補助金」です。これは、IoT機器や配膳ロボット、清掃ロボット、自動精算機などの「省力化製品」をカタログから選んで導入するだけで、費用の1/2(賃上げ要件等を満たせばそれ以上)が補助される制度です。
| 分野 | 導入しやすいツール例 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 勤怠管理・シフト管理 | クラウド勤怠管理システム、打刻アプリ | 打刻ミス削減、集計自動化、残業時間の見える化 |
| 経理・請求業務 | クラウド会計ソフト、請求書発行システム | 入力の自動化、仕訳の自動提案、郵送作業削減 |
| 営業・顧客管理 | クラウド型顧客管理システム(CRM) | 顧客情報の一元管理、引き継ぎ容易化、アプローチ漏れ防止 |
| 社内情報共有・コミュニケーション | チャットツール、オンライン会議システム | メール削減、情報共有のスピード向上、移動時間削減 |
| 労務手続き・人事管理 | 労務管理クラウド、従業員情報管理システム | 入退社手続きの効率化、帳票作成の自動化 |
IT化を進める際のポイントは、「いきなり全てを変えようとしない」ことです。まずは効果が分かりやすく、現場の負担軽減につながる部分から小さく試し、成功事例を社内で共有しながら少しずつ範囲を広げていく方が、定着しやすくなります。
導入検討時には、次の観点も押さえておきましょう。
- 現場で日常的に使う人が操作しやすいか(スマートフォン対応、日本語表記、サポート体制など)
- 既存のシステムやエクセルデータとの連携が可能か
- 将来の人員増減や拠点拡大にも対応できる拡張性があるか
- セキュリティ対策やバックアップ体制が明確か
また、ITツールを単なるコストではなく、「人件費の代わりとなる生産設備」と捉えることも重要です。例えば、毎月20時間かかっている作業を自動化できれば、1年間で240時間の削減になり、これは1人分の労働時間のかなりの部分に相当します。人件費と比較し、投資回収期間を試算したうえで導入を検討すると、経営判断がしやすくなります。
さらに、ペーパーレス化や電子承認ワークフローの導入は、単に時間を削減するだけでなく、テレワークや在宅勤務など柔軟な働き方の基盤にもなります。人材確保が難しい地方の中小企業にとっても、地理的制約を超えた採用や、多様な人材の活用がしやすくなる点で、大きなメリットがあります。
【実践】採用業務をAIで8割削減する具体的プロンプト
求人票の作成やスカウトメールの文面作成に1時間かけていませんか?以下のプロンプト(指示文)を生成AIに入力するだけで、3分でたたき台が完成します。
プロンプト例]
あなたはプロの採用コンサルタントです。以下の条件で、建設業未経験の20代が『この会社なら成長できそう』と感じる求人票のキャッチコピーと仕事内容の紹介文を3案作成してください。 [条件:月給25万円〜、残業月10時間以内、資格取得支援全額会社負担…]
外注・業務委託の活用でコア業務に人員を集中させる
人手不足が深刻な状況で、すべての業務を自社の正社員だけで抱え込むことは現実的ではありません。自社の強みである「コア業務」に人員を集中させ、それ以外の業務は外注や業務委託を積極的に活用する発想が重要です。
外注・業務委託を検討すべき代表的な業務には、次のようなものがあります。
- 経理・記帳代行、給与計算などのバックオフィス業務
- ホームページ更新、チラシ作成、デザイン制作などの広報・マーケティング業務
- システム保守、ネットワーク管理などのIT関連業務
- 清掃、設備点検、警備などの周辺業務
外注を効果的に活用するためには、次のステップで整理することが有効です。
| ステップ | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 1. 業務の棚卸し | 自社で実施している全業務を書き出し、コア業務とノンコア業務を分類する。 | 売上・利益・顧客満足に直結するかどうかで判断する。 |
| 2. 外注候補の選定 | ノンコア業務のうち、専門業者の方が効率的に行える業務を選ぶ。 | 業務量の平準化、繁忙期だけの依頼なども視野に入れる。 |
| 3. 業務範囲の明確化 | 依頼する作業内容や成果物、納期、品質基準を具体的に決める。 | 「どこまでを外注し、どこからを社内で担当するか」を明文化する。 |
| 4. 業者の比較・選定 | 複数社から見積もりや提案を取り、費用だけでなく対応力も比較する。 | 継続性、緊急時の対応、担当者のコミュニケーション力も確認する。 |
| 5. 運用と見直し | 定期的にコスト・品質・コミュニケーション状況を確認し、必要に応じて見直す。 | 丸投げせず、最低限のチェック体制を社内に維持する。 |
外注や業務委託を進める際に注意したいのは、「社内に一切ノウハウが残らない状態」を避けることです。完全に任せきりにすると、委託先の変更やトラブル発生時に対応できず、かえってリスクになる場合があります。最低限の業務フローや管理方法は社内でも把握しておき、マニュアルや手順書を整備しておくと安心です。
一方で、経営者や幹部が「コストがもったいない」「自社でできることは自社で」という考えに固執しすぎると、限られた人員がノンコア業務に忙殺され、本来時間をかけるべき顧客対応や新規開拓が後回しになる危険があります。人手不足の時代こそ、「自社が本当にやるべき仕事は何か」を見極め、戦略的に外注を活用する視点が求められます。
補助金・助成金を活用した設備投資とDX推進
生産性向上やDXを進めるうえで、国や自治体の補助金・助成金を活用することは、中小企業にとって大きな後押しとなります。人手不足対策や業務効率化、IT導入を支援する制度が多数用意されており、うまく活用すれば自己負担を抑えながら設備投資・システム導入を進めることができます。
代表的な制度には、次のようなものがあります。
| 制度の種類 | 具体的な補助金名など(2024-2025年版) | 活用のポイント |
|---|---|---|
| 生産性向上・設備投資 | 中小企業省力化投資補助金 ものづくり補助金 IT導入補助金 | ロボット、自動発注システム、AI-OCRなどの導入に活用。省力化投資補助金はカタログから選ぶ簡易申請が可能。 |
| 賃上げ・人材確保 | 賃上げ促進税制 キャリアアップ助成金 | 給与増額分の税額控除や、非正規社員の正社員化に対する助成。賃上げ原資の負担軽減につなげる。 |
| 事業モデル転換 | 事業再構築補助金 | 人手不足で維持困難な事業から、省人化可能な新分野への展開や業態転換を支援。 |
補助金・助成金を検討する際には、次の点を押さえておく必要があります。
- 公募期間や締切が決まっているため、情報収集を早めに行うこと
- 事前の申請・採択が必要なものが多いため、「購入してから申請」では間に合わない場合があること
- 申請書類に事業計画や数値目標の記載が求められるため、経営者自身の考えを整理しておくこと
- 採択後も実績報告や成果報告が必要なケースが多く、事務負担が発生すること
これらのハードルを乗り越えるために、商工会議所、商工会、金融機関、認定支援機関など、地域の支援機関や専門家のサポートを活用する方法も有効です。経営計画の作成や申請書の記載内容についてアドバイスを受けることで、採択の可能性を高めることができます。
補助金・助成金を使って設備投資やDXを進める際は、単に最新の機械やシステムを導入するだけでなく、「導入後にどの業務が、どれくらい効率化されるのか」を具体的な数字で見積もることが重要です。例えば、1日あたりの作業時間が何時間削減されるのか、何人分の作業を代替できるのか、残業時間や休日出勤がどれだけ減るのか、といった観点で効果を試算します。
さらに、人手不足倒産を防ぐという観点からは、「どの設備投資やDXが、従業員の負担軽減や離職防止につながるか」という視点も欠かせません。重い荷物の運搬や危険な作業を機械化することで、ケガや事故のリスクを下げ、高齢社員や女性社員も働きやすい職場にすることができます。これらは、採用力・定着率の向上にも直結します。
このように、補助金・助成金を上手に活用しながら設備投資とDXを進めることで、限られた人員でも持続的に事業を続けられる体制づくりにつなげることができます。生産性向上は、単なるコスト削減策にとどまらず、従業員を守り、会社を守るための中長期的な経営戦略として位置付けることが重要です。
対策4 外部人材の活用で採用難を乗り切る方法
人手不足が慢性化するなか、正社員だけで全てをまかなう発想には限界があります。採用市場が厳しい今こそ、派遣社員・パート・アルバイト・フリーランス・副業人材・シルバー人材・地域人材など、多様な外部人材を戦略的に組み合わせることで、人手不足倒産のリスクを下げることが重要です。ここでは、外部人材活用の具体的な方法と注意点を整理します。
派遣社員・パート・アルバイトの上手な活用ポイント
派遣社員やパート・アルバイトは、「突然の退職や繁忙期の業務量増加に柔軟に対応できる人材プール」として非常に有効です。一方で、コスト管理や教育体制を誤ると、かえって生産性が下がるリスクもあります。役割ごとに適した雇用形態を選び、法令遵守と労務リスク管理を徹底することが重要です。
派遣・スポットワーク・アルバイトを使い分ける考え方
外部人材を検討する際には、まず「どの業務を」「どのくらいの期間」「どのレベルのスキルで」任せるのかを明確にします。特に2024年以降、数時間単位で働ける「スポットワーク(単発バイト)」市場が急拡大しており、これをうまく取り入れられるかが中小企業の採用戦略のカギとなっています。
| 形態 | 向いている業務・特徴 | 2024-2025年の活用トレンド |
|---|---|---|
| スポットワーク (タイミー等) | 飲食のピークタイム、倉庫の軽作業、イベント設営など「今すぐ人手がほしい」業務 | 急拡大中。面接なしで即日確保できるため、急な欠勤や繁忙期の穴埋めに最適。気に入った人を長期雇用へ引き抜く「お試し採用」としても機能。 |
| 派遣社員 | 経理・事務、ITサポート、コールセンターなど一定の経験が必要な業務 | 即戦力性が高いが、派遣料金は上昇傾向。同一労働同一賃金への対応など、コンプライアンス遵守が必須。 |
| 長期アルバイト | 店舗のレギュラーシフト、事務補助など継続的な業務 | 採用難易度が上昇中。スポットワークで働きぶりを確認してから、長期バイトへスカウトする流れが増えている。 |
業務切り出しとマニュアル整備で生産性を高める
スポットワーク等の外部人材を有効に活かすには、「任せる仕事をあらかじめ細分化し、誰でも即座に作業できるマニュアルを用意すること」が不可欠です。「見て覚えて」というスタイルは通用しません。
例えば、「皿洗い」「品出し」「伝票整理」など、説明なしでも着手できるレベルまで業務を切り出すことで、初めて来たワーカーでも戦力化でき、正社員をコア業務(接客や判断業務)に集中させることが可能になります。
労務トラブルを防ぐための基本ルール
外部人材との契約が増えるほど、労務管理は複雑になります。特にスポットワーク利用時は、労働条件通知書の電子交付や、労働時間管理の適正化が重要です。また、通常のアルバイトであっても、社会保険の適用拡大(106時間・130時間の壁)など、法改正のポイントを押さえておく必要があります。
副業人材・フリーランス・専門家とのスポット契約
近年は、大企業の正社員が副業としてスキルを提供したり、独立したフリーランスが複数の企業をクライアントとして働くケースが増えています。「常勤で採用するほどのボリュームはないが、専門的な知識や高度なスキルが必要な業務」は、副業人材やフリーランスとのスポット契約で解決できる場合があります。
どのような業務を副業・フリーランスに任せやすいか
副業人材やフリーランスは、成果物が明確でオンラインで完結しやすい業務と相性が良い傾向があります。例えば、次のような領域です。
| 業務領域 | 具体例 | 活用メリット |
|---|---|---|
| 企画・マーケティング | ホームページ改善提案、ネット広告運用、SNS運用設計、販促企画など | 社内にない最新ノウハウを短期間で取り入れられる |
| クリエイティブ | チラシデザイン、ロゴ制作、コピーライティング、動画編集など | 必要な時にだけ依頼でき、固定費を抑えられる |
| バックオフィス | 経理の記帳代行、給与計算、労務手続きの一部アウトソーシングなど | ルーティン作業を外出しし、社内の負担を軽減できる |
| 専門コンサルティング | 人事制度設計、業務改善支援、IT導入支援、中小企業向け経営アドバイスなど | 経営の重要テーマを短期間で前進させやすい |
「フリーランス新法」への対応と契約準備
2024年11月に施行された「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」により、企業側には「取引条件の明示」「報酬支払期日の厳守(60日以内)」「ハラスメント対策」などが義務付けられました。
違反すると行政指導の対象となるため、副業人材やフリーランスと契約する際は、口頭発注を避け、必ず契約書や発注書(メール・SNS等の記録も可、ただし条件明示が必要)を交わす体制を整えておくことが必須です。「これまでなあなあで済んでいた」という企業ほど注意が必要です。
社内人材との役割分担とナレッジ共有
外部プロ人材は「助っ人」としては優秀ですが、依存しすぎると社内にノウハウが蓄積されません。スポット契約をする際は、成果物を受け取るだけでなく、「マニュアルの作成」や「社内メンバーへのレクチャー」を業務内容に組み込むことをお勧めします。外部の知見を社内の資産に変えていく意識が、中長期的な人手不足対策として重要です。
シルバー人材と地域人材を活かす仕組みづくり
少子高齢化が進む中で、「地域の高齢者や子育て中の人材など、多様な働き手をどう活かすか」は、中小企業にとって大きなテーマです。体力的にフルタイム勤務が難しい人でも、時間や仕事内容を工夫することで、戦力として活躍してもらえる可能性があります。
シルバー人材の活用のポイント
シルバー人材は、これまでの経験やネットワークを活かしつつ、無理のない範囲で働きたいというニーズがあるケースが多く見られます。例えば、次のような業務との相性が良いことが多いです。
- 顧客訪問や営業サポートなど、人とのコミュニケーションが中心の業務
- 社内の安全管理や設備点検、簡易的なメンテナンス
- 倉庫内の軽作業や検品、社内美化や庶務的業務
重要なのは、作業環境や業務量を年齢や体力に合わせて設計し、過度な負担をかけないことです。安全配慮義務を徹底し、段差や重い荷物の扱いなど、事故につながりやすいポイントを事前に洗い出しておきましょう。
地域人材を掘り起こす工夫
地方都市や郊外では、「フルタイム勤務はできないが、短時間なら働きたい」という潜在的な地域人材が存在するケースもあります。これらの人材を活用するためには、次のような工夫が有効です。
- 午前中のみ、夕方のみなど、時間帯を限定した短時間勤務枠を用意する
- 学校行事や家庭の事情に配慮した柔軟なシフト制度を設計する
- 地元の求人媒体や自治体の掲示板、商工会などを通じて情報発信する
- 子育て世代が働きやすいように、急な休みに対応できるバックアップ体制を整える
このような取り組みを通じて、地域とのつながりを深めることは、採用面だけでなく、地元顧客との信頼関係構築や企業イメージ向上にもつながり、人手不足倒産を防ぐための長期的な土台となります。
受け入れ体制とコミュニケーションの工夫
シルバー人材や地域人材を受け入れる際には、既存社員とのコミュニケーションの取り方がポイントになります。年齢差や働き方の違いから、誤解やすれ違いが生じやすいため、役割や期待する行動を明確に伝え、相談やフォローの窓口を決めておくことが重要です。
また、定期的なミーティングや面談を通じて、体調や働き方の希望を確認し、小さな不満や不安を早期に把握しておくことで、離脱を防ぎ安定的な戦力として活躍してもらいやすくなります。
産業雇用安定センター・マッチング支援サービスの活用
人手不足に悩む企業と、雇用維持や人員整理に悩む企業をつなぐ公的なマッチング機能も整備されています。自社だけで採用活動を完結させるのではなく、産業雇用安定センターや各種マッチング支援サービスを上手に利用することで、人材確保の可能性を広げられます。
産業雇用安定センターの役割と活用イメージ
産業雇用安定センターは、企業間の人材マッチング支援などを行っている機関として知られています。具体的には、在籍型出向の支援などを通じて、一時的に人が余っている企業から、人手が足りない企業へ人材を送り出す仕組みをサポートする役割を担っています。
人手不足側の企業にとっては、一定期間、経験を持つ人材を受け入れられる可能性があることがメリットです。人材紹介と違い、企業同士の協力関係を前提としているため、地域産業全体で雇用を維持し、人手不足倒産を減らしていく観点からも重要な仕組みだと言えます。
その他のマッチング支援サービスの活用例
公的機関や自治体、商工会議所などでは、中小企業向けの人材マッチングや出会いの場づくりを行っていることがあります。例えば、次のような支援が代表的です。
- 合同企業説明会やマッチングイベントの開催
- Uターン・Iターン希望者と地元企業とのマッチング支援
- 専門家派遣制度や、一定期間の伴走支援
これらを活用することで、通常の求人広告だけでは出会えない人材と接点を持つことができます。「人が来ない」と嘆く前に、地域の支援機関が提供しているメニューを洗い出し、自社に合うものを積極的に試してみる姿勢が重要です。
外部人材活用全体を設計する視点
外部人材活用は、その場しのぎの「穴埋め」ではなく、自社の事業計画や人員戦略と結びつけて考えることが大切です。例えば、次のようなステップで整理していくと、ブレの少ない運用がしやすくなります。
- 今後1〜3年の事業計画から、必要な機能やスキル、作業量を見積もる
- 正社員で担うべき中核業務と、外部人材に委ねられる周辺業務を切り分ける
- 周辺業務ごとに、派遣・パート・アルバイト・副業人材・フリーランス・シルバー人材など適した形態を検討する
- 受け入れ体制やマニュアル、評価方法、情報管理ルールを整備する
- 実際に活用した結果を振り返り、契約形態や人員構成を定期的に見直す
このように、外部人材を「不足分の補充」ではなく「事業を前進させるためのパートナー」として位置付けることで、人手不足倒産のリスクを下げながら、会社全体の競争力を高めていくことが可能になります。
対策5 資金繰りと事業計画の見直しで倒産リスクを抑える
人手不足倒産は「人がいないから仕事を断る」だけでなく、「採用難で人件費が想定以上に増えた」「残業代や採用コストが膨らみ資金繰りが悪化した」結果として起こるケースも多くあります。したがって、人手不足への対策と同時並行で、資金繰り管理と事業計画の見直しを行うことが、黒字倒産を防ぐうえで極めて重要です。
ここでは、売上計画と人件費計画を連動させたシミュレーションの方法、金融機関との付き合い方や公的支援の活用、人手不足を前提とした事業再構築の考え方、そして専門家へ相談すべきタイミングについて解説します。
売上計画と人件費計画を連動させたシミュレーション
人手不足倒産を防ぐためには、「感覚」ではなく数字に基づいた経営判断が欠かせません。特に中小企業では、売上計画と人件費計画がバラバラに立てられていることが多く、「売上は伸びているのに、いつの間にか資金が足りなくなる」という事態が起こりがちです。まずは売上・人件費・固定費・変動費の関係を整理し、シミュレーションできるようにしておきましょう。
損益の構造を整理し「人件費の限界」を把握する
人手不足の中で無理な増員や過度な残業代を発生させると、利益が圧迫されて資金繰りに直結します。そこで重要になるのが、損益分岐点と人件費の許容範囲を把握することです。
| 項目 | 内容 | 人手不足対策との関係 |
|---|---|---|
| 売上高 | 自社の商品・サービスの販売額の合計。 | 採用強化や人員増により売上拡大が見込める部分を見極める。 |
| 変動費 | 材料費や外注費など、売上高に比例して増減する費用。 | 外注化や業務委託を活用することで、人件費と変動費のバランスを変えられる。 |
| 固定費 | 家賃、水道光熱費、減価償却費、役員報酬など売上に関係なく発生する費用。 | 人手不足で稼働率が落ちると、固定費負担が重くなり赤字幅が拡大する。 |
| 人件費 | 従業員給与、賞与、法定福利費、残業代、採用コストなど。 | 採用強化や給与引き上げの前に、「売上に見合う人件費水準か」を必ず確認する。 |
| 営業利益 | 売上総利益から販管費を差し引いた本業の利益。 | 人員増や待遇改善が、どの程度営業利益を押し下げるかを事前に試算する。 |
この構造を踏まえ、「現在の売上水準で、あと何人まで人を増やしても採算が合うのか」あるいは「現有人員を維持するには、どの程度の売上が必要か」を数字で把握することが、人手不足時代の経営には不可欠です。
売上・人件費・採用コストを連動させたシミュレーションの進め方
次のようなステップで、シンプルなシミュレーション表を作成しておくと、採用や残業削減の判断がしやすくなります。
| ステップ | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 1. 現状把握 | 直近1〜2年分の月次試算表から、売上高・人件費・その他固定費・変動費を整理する。 | 「人件費率(売上高に対する人件費の割合)」を算出し、過去からの推移も確認する。 |
| 2. 売上シナリオの設定 | 「現状維持」「やや増加」「人手不足による減少」など複数の売上シナリオを設定する。 | 受注残や主要取引先の方針、人員不足による受注制限の見込みを織り込む。 |
| 3. 人員計画の設定 | 各シナリオごとに、「現有人員で対応」「追加採用」「外注・派遣活用」など複数パターンを作成する。 | 単純な人数だけでなく、スキル構成や年齢構成、残業時間の想定も含めて検討する。 |
| 4. 人件費・採用コストの試算 | 基本給、賞与、残業代、社会保険料、採用広告費、人材紹介手数料などを含めて試算する。 | 目先の給与だけでなく、採用にかかる一時費用や教育訓練コストも含めて「総人件費」として把握する。 |
| 5. 利益・資金繰りへの影響確認 | 各パターンで売上・費用・利益を算出し、必要に応じて資金繰り表にも落とし込む。 | 「利益は出るが資金が足りない」状況がないか、入金サイト・支払サイトも含めて確認する。 |
このようなシミュレーションをしておけば、「この条件なら追加で2名採用しても資金的に持ちこたえられる」「この売上水準なら、外注比率を高めて固定人件費を増やさない方が良い」などの判断が、感覚ではなく数字でできるようになります。
「借金返済」と「価格転嫁」を考慮した資金繰り表
2024年から2025年にかけては、コロナ禍の「実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)」の返済ピークを迎える企業が多く、資金繰りは一層タイトになります。黒字倒産を防ぐためには、損益計算書(PL)上の利益だけでなく、「返済後のお金が手元に残るか」を可視化する資金繰り表の作成が必須です。
さらに重要なのが「価格転嫁」です。人件費が高騰する中、従来の単価のままでは利益が出ません。資金繰り表シミュレーションには、「人件費アップ分をどの程度価格に転嫁できれば、資金が回るか」という視点を盛り込み、取引先との交渉材料として準備しておくことが、倒産回避の生命線となります。
金融機関との対話 日本政策金融公庫・信用保証協会の活用
人手不足倒産を回避するには、自社だけで資金繰りを抱え込まず、金融機関との関係性を強化し、公的な金融支援制度を上手に活用することが重要です。特に、日本政策金融公庫や信用保証協会と連携した制度融資は、中小企業の資金繰りを支える代表的な仕組みとして広く利用されています。
日頃から金融機関とコミュニケーションを取る重要性
資金が逼迫してから慌てて金融機関に相談しても、必要なタイミングで十分な融資を受けられない場合があります。金融機関も、「計画的に経営している会社」には前向きに支援しやすく、「ギリギリになって相談に来る会社」には慎重にならざるを得ないためです。
そのため、以下のようなコミュニケーションを日常的に行うことが望まれます。
- 月次試算表や資金繰り表を用意し、定期的に状況を説明する。
- 人手不足の現状、採用計画、生産性向上の取り組み内容などを共有する。
- 今後の売上見通しや投資計画を説明し、必要となりそうな運転資金の規模を事前に相談する。
こうした情報開示により、金融機関は自社の状況を理解しやすくなり、「人手不足対策のための一時的な資金需要」であることを説明できれば、前向きな支援を受けられる可能性が高まります。
日本政策金融公庫の活用ポイント
日本政策金融公庫は、中小企業や小規模事業者の資金調達を支援する公的金融機関です。設備資金だけでなく、運転資金の融資メニューも用意されています。人手不足に関連しては、例えば次のようなケースで活用が検討されます。
- 新たな人材採用や教育訓練に伴う一時的な資金需要が発生する場合。
- 生産性向上のためにITツールや設備への投資が必要な場合。
- 取引先の支払条件変更などにより、運転資金のギャップが生じる場合。
日本政策金融公庫を利用する際には、「なぜ資金が必要なのか」「人手不足をどのように解消し、返済原資となる売上・利益をどう確保するのか」を事業計画として整理しておくことが、審査に臨むうえで有益です。
信用保証協会付き融資(制度融資)の基本的な考え方
信用保証協会は、中小企業が金融機関から借入を行う際に、公的な保証人の役割を果たす機関です。信用保証協会の保証付き融資は、多くの地方銀行や信用金庫などで取り扱われており、都道府県や市区町村が関与する「制度融資」として運用されることもあります。
人手不足に向き合う中で、次のような場面で信用保証協会付き融資の活用が検討されます。
- 採用強化のための広告費や紹介手数料が一時的に増加する。
- 人員不足を補うための外注費や派遣費用が増加し、運転資金が圧迫される。
- 設備投資と同時に運転資金も確保しておきたい。
信用保証協会付き融資を検討する際も、金融機関との面談で、人手不足の影響と今後の採用・業務改善の計画を具体的に説明できるようにしておくことが大切です。
金融機関との付き合い方で押さえるべきポイント
人手不足倒産を回避するために、金融機関と付き合う際に特に押さえておきたいポイントを整理します。
| ポイント | 具体的な行動 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 早めの相談 | 資金繰りが厳しくなる「前」に、資金繰り表を示して相談する。 | 追加融資や返済条件見直しなど、選択肢が広い段階で対応を検討できる。 |
| 情報開示 | 人手不足の状況や受注見通し、採用計画などを包み隠さず説明する。 | 金融機関に「状況をコントロールしようとしている会社」と評価されやすくなる。 |
| 事業計画の提示 | 売上・利益計画とあわせて、人員計画や生産性向上の取り組みを文書で示す。 | 人手不足を乗り越えるシナリオを共有でき、融資判断の材料となる。 |
| メインバンクの明確化 | 複数行と取引している場合、どこをメインバンクと位置づけるか決めておく。 | いざという時に相談の窓口がはっきりし、支援スキームも組み立てやすくなる。 |
このように、金融機関を「審査をする相手」としてだけではなく、「人手不足時代の経営を共に考えるパートナー」として位置づけることが、安定した資金繰りの土台になります。
人手不足を踏まえた事業再構築と選択と集中の検討
採用難が長期化する中で、従来と同じ事業構造やサービス内容を維持することが現実的でない場合もあります。そんなときは、「人を増やす」発想だけでなく、「限られた人員で持続可能な事業ポートフォリオに組み替える」という発想が必要です。
採算性と人員負荷の両面から事業を棚卸しする
まずは、現在行っている事業やサービスを一覧にし、売上・利益だけでなく「必要人員」「必要スキル」「残業時間」などの観点から棚卸ししてみましょう。
| 評価軸 | 具体例 | 人手不足対策への示唆 |
|---|---|---|
| 売上規模 | 年商に占める割合、成長性の有無。 | 売上は小さくても戦略的に必要な事業かどうかを見極める。 |
| 利益率 | 粗利益率、営業利益率、案件ごとの採算。 | 低利益の割に手間がかかる事業は、人手不足時には見直し候補となる。 |
| 必要人員・時間 | 1件あたりに必要な工数、常時必要な人数、担当者の残業時間。 | 同じ売上でも、労働集約度が高い事業は人手不足のリスクが大きい。 |
| 必要スキル | 熟練度が必要か、標準化しやすいか、教育期間の長さ。 | 限られた熟練者に依存する事業は、退職や病気で一気にリスクが高まる。 |
| 将来性・戦略性 | 市場の成長性、自社の強みとの適合度。 | 短期的な採算だけでなく、中長期の成長エンジンとなるかを考える。 |
この棚卸しを行うことで、「人員を投入して伸ばすべき事業」「縮小・撤退も検討すべき事業」「外注や提携で維持すべき事業」などの優先順位が見えてきます。
選択と集中による事業再構築の考え方
人手不足時代においては、「すべての事業を維持する」ことが必ずしも最善とは限りません。むしろ、人手が足りないからこそ、強みのある領域に人と資金を集中させることが、倒産リスクを下げる近道となる場合があります。
- 利益率が低く、人手ばかり取られる仕事は、価格見直しや取引条件の調整を行う。
- それでも改善が難しい場合は、段階的な縮小や撤退を検討する。
- 自社の強みが活かせる高付加価値なサービス・商品にリソースを集中する。
- 一部業務は外注や提携先に任せ、コア業務に自社人材を集中的に配置する。
このような選択と集中は、一時的には売上規模を縮小させるかもしれませんが、限られた人員で安定して利益を出し続ける体制を作ることができれば、結果として資金繰りは安定し、人手不足倒産のリスクも下がります。
公的支援制度を活用した事業再構築
事業構造を見直す際には、各種補助金や助成金、専門家派遣などの公的支援制度を活用できる場合があります。例えば、生産性向上や業務転換に取り組む中小企業を支援する制度では、設備投資やIT導入、外部専門家への依頼費用などが対象となることがあります。
こうした支援制度を利用することで、人手不足を前提とした事業再構築を、自己資金だけに頼らず進めることが可能となり、資金繰りへの負担を軽減しながら中長期的な競争力強化につなげることが期待できます。
早期に専門家へ相談するタイミング 税理士・社労士・中小企業診断士
人手不足と資金繰りの問題は、経営者一人で抱え込むには負担が大きく、判断を誤ると取り返しがつかなくなることもあります。そのため、状況が深刻化する前に、税理士・社会保険労務士・中小企業診断士などの専門家に相談することが重要です。
税理士に相談すべき内容とタイミング
税理士は、会計や税務だけでなく、資金繰りや節税も含めた経営全般の相談相手となり得ます。特に、以下のような局面では早めの相談が有効です。
- 人手不足により残業代が増え、利益が急激に圧迫され始めた。
- 新たな採用や設備投資を予定しており、資金繰りへの影響を試算したい。
- 金融機関に提示する事業計画書や試算表の作成が必要になった。
税理士に相談することで、損益分岐点やキャッシュフローの観点から、人手不足対策と資金計画のバランスを取るアドバイスを受けやすくなります。
社会保険労務士に相談すべき内容とタイミング
社会保険労務士は、人事・労務・社会保険の専門家です。人手不足倒産を防ぐうえでは、次のようなテーマでの相談が役立ちます。
- 長時間労働が常態化しており、労働基準法違反や未払い残業代のリスクが心配。
- 採用難に対応するため、賃金制度や評価制度を見直したい。
- 人材確保や働き方改革に関連する助成金の活用を検討したい。
社会保険労務士は、「従業員の定着率向上」と「法令遵守によるリスク回避」を両立させる仕組みづくりを支援してくれます。その結果、予期せぬトラブルによる離職や訴訟リスクを減らし、資金繰りへの悪影響を未然に防ぐことにもつながります。
中小企業診断士に相談すべき内容とタイミング
中小企業診断士は、経営コンサルティングを専門とする国家資格者であり、事業計画や経営改善計画の策定支援を行っています。人手不足倒産の防止という観点では、特に次のような場面での活用が考えられます。
- 人手不足を踏まえて、事業の選択と集中や再構築を検討したい。
- 生産性向上や業務プロセス改善の具体的な進め方が分からない。
- 補助金や公的支援を活用しながら、IT投資や新規事業を進めたい。
中小企業診断士との連携により、数字と現場の両面から「人員計画」「設備投資」「資金計画」を一体的に見直し、人手不足時代でも持続可能なビジネスモデルを構築するための道筋を描きやすくなります。
専門家に相談する際の準備と心構え
専門家に相談する際は、次のような資料や情報を事前に整理しておくと、より具体的なアドバイスを受けやすくなります。
- 直近の決算書、月次試算表、資金繰り表。
- 従業員数、年齢構成、離職状況、残業時間の概況。
- 主要な取引先や仕入先、売上構成、利益率の高い商品・サービス。
- 人手不足に関する具体的な課題(採用できない、育たない、辞めてしまうなど)。
また、「すべて自社で解決しなければならない」という思い込みを手放し、外部の知見を柔軟に取り入れる姿勢が、厳しい経営環境を乗り切るうえで大きな支えになります。
人手不足倒産を防ぐために今すぐ着手すべき行動チェックリスト
人手不足が深刻化する中、経営者が「分かってはいるが、何から手を付ければよいか分からない」という状態のまま時間が過ぎると、気付かないうちに業務が破綻し、資金繰りにも悪影響が出て、最終的に人手不足倒産へとつながる危険があります。そこで、ここでは今日からすぐに着手できる具体的な行動を、短期・中期・1年スパンのチェックリストとして整理し、優先順位を付けて取り組めるようにします。
この章のチェックリストは、採用・定着・業務改善・労務管理・資金繰りといった観点を網羅し、人手不足倒産のリスクを早期に発見し、予防的に対策を講じることを目的としています。すべてを一度に完璧に実行する必要はありませんが、「いつまでに、何を、誰がやるか」を明確にし、進捗を継続的に見直していく仕組みをつくることが重要です。
直近3か月で確認すべき採用・定着指標
まずは現状把握と見える化から始めます。特に2024年の法改正以降、求職者の動きは早くなっており、「選ばれる会社」と「選ばれない会社」の二極化が進んでいます。直近3か月以内に、以下の指標を確認し、危険信号が出ていないかチェックしてください。
採用状況に関するチェックリスト
人手不足の入口である「採用」がどの程度機能しているかを、定期的に点検します。求人を出していても応募が少ない、内定辞退が多いといった状況は、将来の人手不足倒産リスクのシグナルです。
| 項目 | 確認内容 | 確認期限(目安) | 担当者 |
|---|---|---|---|
| 採用計画の有無 | 今期・来期の人員計画(職種別・人数・採用時期)が書面で整理されているかを確認する。 | 1週間以内 | 経営者・人事担当 |
| 求人媒体の整理 | ハローワーク、民間求人サイト、人材紹介会社、自社ホームページなど、現在利用している媒体と費用対効果を一覧化する。 | 2週間以内 | 人事担当 |
| 応募数・面接数 | 直近3か月の応募者数、書類選考通過数、面接実施数を集計し、職種ごとに傾向を把握する。 | 2週間以内 | 人事担当 |
| 内定辞退・不採用理由 | 内定辞退者、不採用者それぞれについて、可能な範囲で理由を整理し、求人票や面接内容の改善につなげる。 | 3週間以内 | 人事担当・現場責任者 |
| 採用単価の把握 | 1名採用するのにかかった広告費・紹介料・採用担当者の工数などを概算で算出し、無駄なコストがないか確認する。 | 1か月以内 | 経理・人事担当 |
これらの項目が把握できていない場合、「採用がうまくいっていない原因が分からない」状態になり、採用力を強化するための打ち手が打てないという問題が生じます。数字を集計するだけでも、業種・職種・地域ごとの傾向や、求職者に響いていないポイントが見えてきます。
定着率・離職率に関するチェックリスト
採用できても、短期離職や高い離職率が続けば、現場の人員不足は解消されません。人手不足倒産を防ぐには、定着率と離職率を定期的に確認し、「辞めさせないための職場づくり」ができているかを検証することが不可欠です。
| 項目 | 確認内容 | 確認期限(目安) | 担当者 |
|---|---|---|---|
| 直近1年の離職者数 | 正社員・パート・アルバイト・契約社員など雇用形態別に離職者数を集計し、部署・職種別の傾向を把握する。 | 2週間以内 | 総務・人事担当 |
| 離職理由の整理 | 退職届や退職面談の記録をもとに、待遇・人間関係・仕事内容・労働時間など、主な離職理由をカテゴリ別に整理する。 | 1か月以内 | 人事担当 |
| 入社3年以内の定着率 | 新卒・中途ともに、入社から3年以内の定着率を概算し、早期離職が多い部門や職種を特定する。 | 1か月以内 | 人事担当 |
| 年齢構成の把握 | 従業員の年齢構成を一覧化し、特定の年代に偏りがないか、高齢化が進んでいないかを確認する。 | 3週間以内 | 総務・人事担当 |
| 退職予兆の有無 | 急な欠勤増加、モチベーション低下、業務量過多など、現場からの気になる声をリスト化し、フォロー体制を検討する。 | 随時・3か月に1回振り返り | 現場リーダー・人事担当 |
これらの情報が整理できていない企業は、「人が足りない」の原因が採用力不足なのか、定着率の低さなのかを切り分けできず、場当たり的な採用活動に陥りがちです。直近3か月で、まずは情報の洗い出しと一覧化に取り組みましょう。
労働時間・残業・健康状態のチェックリスト
人手不足倒産のリスクは、長時間労働や過重労働が常態化し、従業員の健康問題や労務トラブルに発展することで一気に高まります。直近の労働時間や残業時間、有給休暇の取得状況などを確認し、本格的な対策の前に、現状を把握しましょう。
| 項目 | 確認内容 | 確認期限(目安) | 担当者 |
|---|---|---|---|
| 残業時間の実態 | 部署ごと・個人ごとに、直近3か月の残業時間を集計し、特定の人に業務が集中していないかを確認する。 | 2週間以内 | 総務・労務担当 |
| 有給休暇取得状況 | 年次有給休暇の取得率と、取得しづらい部署・職種がないかを確認する。 | 1か月以内 | 総務・人事担当 |
| 時間外労働の上限管理 | 36協定の内容と実際の時間外労働が乖離していないか、労働基準法違反のリスクがないかを点検する。 | 1か月以内 | 経営者・労務担当 |
| 健康診断結果のフォロー | 定期健康診断の有所見者に対するフォローが行われているか、過重労働との関連がないかを確認する。 | 3か月以内 | 総務担当・産業医(いる場合) |
この段階では、「どの部署・どの社員が危険水準に近づいているのか」を把握することが目的です。具体的な長時間労働の是正策や、働き方改革の実行は次の中期的なステップで取り組んでいきます。
半年以内に実行したい業務改善と人事制度見直し
直近3か月で現状を見える化できたら、次は「半年以内に必ず着手し、ある程度の効果を確認したい取り組み」を整理します。この期間での目標は、業務負荷を下げる仕組みづくりと、離職を防ぐための人事制度・評価制度の見直しです。
業務改善・生産性向上に関するチェックリスト
人手不足倒産を防ぐには、単に人を増やすのではなく、限られた人員でも業務が回るように、ムダな仕事を減らし、生産性を上げることが不可欠です。半年以内に、業務の棚卸しとIT・DXの導入、外注・業務委託の検討を進めましょう。
| 項目 | 実施内容 | 実施期限(目安) | 担当部署 |
|---|---|---|---|
| 業務フローの可視化 | 主要な業務(受注・製造・サービス提供・請求・経理など)の流れを、部署横断でフローチャートに起こし、属人化している業務を洗い出す。 | 2か月以内 | 各部門長・経営者 |
| ムダな業務の削減 | 書類の二重入力、紙ベースの承認、不要な会議など、付加価値の低い業務をリスト化し、「やめる・減らす・簡素化する」方針を決める。 | 3か月以内 | 改善プロジェクトチーム |
| ITツール・クラウドの導入検討 | 勤怠管理、経費精算、請求書発行、在庫管理、顧客管理などにおいて、クラウドサービスや業務ソフトで自動化できる領域を調査する。 | 3~4か月以内 | 管理部門・情報システム担当 |
| 補助金・助成金情報の収集 | 生産性向上やデジタル化、業務改善に活用できる国・自治体の補助金・助成金について、商工会議所や中小企業団体、専門家から情報を集める。 | 3か月以内 | 経営者・総務担当 |
| 外注・業務委託の検討 | 自社の強みではないノンコア業務(デザイン、システム開発、経理の一部、配送など)を洗い出し、外部委託で負荷軽減できるか検討する。 | 4~6か月以内 | 経営者・各部門長 |
業務改善は、一度で終わりではなく、「小さく始めて、効果を見ながら継続する」ことが重要です。半年以内に、少なくとも1つは目に見える改善成果(残業時間の削減、作業時間の短縮など)を出し、社員の協力を得やすくすることが、次のステップへの土台となります。
人事制度・評価制度の見直しチェックリスト
人手不足倒産は、採用難だけでなく、「給与・評価・処遇への不満から人が辞めてしまう」ことで、人員が維持できなくなることによっても引き起こされます。半年以内に、人事制度と評価の仕組みを見直し、「ここで働き続けたい」と思ってもらえる環境を整えましょう。
| 項目 | 見直し内容 | 実施期限(目安) | 担当者 |
|---|---|---|---|
| 給与水準の確認 | 主要職種の給与水準を、業界平均や地域の相場と比較し、大きな乖離がないかを確認する。 | 3か月以内 | 経営者・人事担当・税理士 |
| 評価基準の明文化 | 評価項目・評価基準を文章で整理し、どのような行動や成果が昇給・昇格につながるのかを社員に説明できる状態にする。 | 4か月以内 | 経営者・人事担当 |
| 面談制度の導入・強化 | 年1回以上の人事評価面談に加え、定期的な1on1ミーティングなど、上司と部下が目標・キャリア・悩みを話せる場を設ける。 | 4~6か月以内 | 各部門長・人事担当 |
| 昇給・賞与のルール化 | 昇給・賞与の決定基準を、できる範囲で「売上・利益・個人の評価」と連動させ、社員に分かりやすく共有する。 | 6か月以内 | 経営者・経理・人事担当 |
| 福利厚生・働き方の見直し | テレワーク、フレックスタイム、短時間勤務など、業種・職種の特性に合わせた柔軟な働き方を、段階的に導入できないか検討する。 | 6か月以内 | 経営者・人事担当 |
人事制度の見直しはコストもかかるため、「すべてを一度に変える」のではなく、「優先度の高い層」から改善することも現実的です。例えば、離職率が高い若手社員や、現場のキーパーソンとなる中堅社員から優先的に処遇を見直すなど、段階的なアプローチを検討しましょう。
職場環境・コミュニケーション改善チェックリスト
給与や制度だけでなく、日々のコミュニケーションや職場の雰囲気も、定着率とエンゲージメントに大きな影響を与えます。半年以内に、現場の声を吸い上げる仕組みと、リーダー教育を進めましょう。
| 項目 | 実施内容 | 実施期限(目安) | 担当者 |
|---|---|---|---|
| エンゲージメント調査 | 従業員満足度や職場への期待・不満を匿名アンケートで把握し、経営陣が結果を共有・フォローする。 | 3~6か月以内 | 人事担当・経営者 |
| 現場ヒアリング | 部署ごとに小規模な座談会やミーティングを行い、業務負荷・人間関係・安全衛生などの課題を聞き取る。 | 3か月以内 | 各部門長・経営者 |
| リーダー向け研修 | 現場リーダーや管理職向けに、部下育成・パワーハラスメント防止・コミュニケーションスキルなどの研修を検討する。 | 6か月以内 | 経営者・人事担当 |
| 相談窓口の整備 | 労働環境やハラスメント、不安・悩みを相談できる窓口(社内担当者・社外窓口)を明確にし、全社員に周知する。 | 6か月以内 | 総務・人事担当 |
これらの取り組みは、すぐに数値として効果が出るとは限りませんが、「上司が変わろうとしている」という姿勢を見せることこそが、若手・中堅社員の信頼を取り戻す特効薬です。形だけのイベントではなく、日常の「挨拶」や「傾聴」から変えていきましょう。
1年を見据えた人員計画と資金計画の立て方
直近3か月・半年の対策に続いて、1年スパンで「人員計画」と「資金計画」を連動させることが、人手不足倒産を防ぐうえで極めて重要です。採用や人件費は、経営にとって大きな固定費であり、売上計画や事業の方向性と切り離して考えることはできません。
1年先を見据えた人員計画チェックリスト
人員計画を立てずに採用を続けると、人が足りなくなってから慌てて求人を出す、あるいは業績悪化時に急な人員削減が必要になるなど、経営の安定性を損ないます。1年間の売上・生産・サービス提供の見通しをもとに、「いつ・どの部署で・何人必要か」を明確にすることが大切です。
| 項目 | 計画内容 | 策定期限(目安) | 担当者 |
|---|---|---|---|
| 売上・受注の見通し | 既存顧客の動向、新規案件の見込み、シーズン要因などを踏まえ、四半期ごとの売上・受注予測を作成する。 | 3か月以内 | 経営者・営業責任者 |
| 生産・サービス提供計画 | 売上・受注予測にもとづき、必要な生産量やサービス提供件数を試算し、現状人員で対応可能かを検証する。 | 4か月以内 | 現場責任者・生産管理担当 |
| 採用計画の立案 | 不足が見込まれる職種・部署について、採用人数・採用時期・採用手法(新卒・中途・アルバイトなど)を明文化する。 | 4~5か月以内 | 経営者・人事担当 |
| 育成・配置転換計画 | 内部人材の育成やジョブローテーションで補える部分を検討し、教育計画や配置転換の候補を整理する。 | 5か月以内 | 各部門長・人事担当 |
| 外部人材活用計画 | 派遣社員、パート・アルバイト、副業人材、フリーランス、シルバー人材などを、どの業務でどの程度活用するかを検討する。 | 6か月以内 | 経営者・人事担当 |
人員計画では、「採用で補う部分」と「業務改善や外部委託で対応する部分」を明確に分けて検討することがポイントです。すべてを正社員採用で賄おうとすると、人件費の固定化により、景気や需要の変動に耐えられなくなるリスクがあります。
人件費と資金繰りを連動させた資金計画チェックリスト
人手不足倒産は、多くの場合、「人が足りないために受注機会を逃し、売上が伸びない一方で、人件費と固定費が重くのしかかる」ことで発生します。1年を見据えた資金計画で、人件費と資金繰りをしっかり連動させることが重要です。
| 項目 | 計画・確認内容 | 策定期限(目安) | 担当者 |
|---|---|---|---|
| 人件費予算の作成 | 既存従業員の給与・賞与・社会保険料に、採用予定人員の人件費を加え、1年間の人件費総額を試算する。 | 3~4か月以内 | 経営者・経理・税理士 |
| 売上・粗利とのバランス確認 | 売上・粗利と人件費の割合を算出し、事業として持続可能な水準かどうかを検討する。 | 4か月以内 | 経営者・経理担当 |
| 資金繰り表の作成 | 月次の資金繰り表を作成し、入金サイト・支払サイトを踏まえながら、資金ショートのリスクがないかを確認する。 | 3か月以内 | 経理担当・税理士 |
| 金融機関との対話 | メインバンクや日本政策金融公庫、信用金庫・信用組合などと定期的に面談し、人員計画・採用計画と資金ニーズを共有する。 | 6~12か月以内(少なくとも年1回) | 経営者 |
| 信用保証協会等の活用検討 | 運転資金や設備資金が必要な場合に、信用保証協会の保証付融資の活用可能性について、金融機関や専門家と相談する。 | 6~12か月以内 | 経営者・税理士・中小企業診断士 |
資金計画を立てる目的は、「ゼロゼロ融資の返済」と「賃上げ原資の確保」を両立できるか現実的にシミュレーションすることです。もし「2%の賃上げをすると赤字転落する」なら、それは「賃上げできない」のではなく「価格転嫁するしかない」という経営判断のサインです。
事業の選択と集中・構造見直しチェックリスト
1年という少し長いスパンで考えると、「現状の事業内容・サービス内容を、この人員構成で維持し続けることが本当に妥当なのか」を検討する必要があります。人手不足が慢性的に続く事業から撤退したり、重点分野に人員を集中させたりすることで、人手不足倒産のリスクを下げることができます。
| 項目 | 検討内容 | 検討期限(目安) | 担当者 |
|---|---|---|---|
| 事業別収益性の把握 | 主要な事業や商品・サービスごとに、売上・粗利・必要人員・残業時間などを整理し、収益性と負荷を可視化する。 | 6か月以内 | 経営者・経理・各部門長 |
| 人手不足が特に深刻な事業の特定 | 慢性的な人員不足や高い離職率が続いている事業・現場を特定し、対応策(改善・縮小・撤退)を検討する。 | 6~9か月以内 | 経営者・人事担当 |
| 重点分野への人員シフト | 今後伸ばしたい事業や利益率の高い事業に、教育・配置転換・中途採用などで人員を集中させる計画を立てる。 | 9~12か月以内 | 経営者・各部門長 |
| 事業再構築・業態転換の検討 | 人手不足を前提に、設備投資やDXを活用した省人化、ビジネスモデルの見直しなど、中長期的な方向性を専門家と議論する。 | 12か月以内 | 経営者・中小企業診断士・税理士 |
| 専門家への早期相談 | 人手不足と資金繰りに不安がある場合、税理士、社会保険労務士、中小企業診断士などに早めに相談し、具体的な改善計画を作成する。 | 状況悪化前に随時 | 経営者 |
事業の選択と集中は、経営者にとって難しい決断を伴いますが、「人手不足の中で、すべての事業を現状維持しようとすること」が、結果として人手不足倒産のリスクを高めるという現実があります。1年という時間軸で、どの事業を伸ばし、どの事業を縮小・撤退するかを検討することは、社員の雇用を守るうえでも重要な経営判断です。
ここまでのチェックリストを通じて、直近3か月での現状把握、半年以内の業務改善・人事制度見直し、1年を見据えた人員計画と資金計画の連動という3つの時間軸で、具体的な行動を整理しました。すべてを完璧に行う必要はありませんが、「いつまでに、どの項目に着手するか」を決め、社内で共有しながら一つひとつ着実に実行していくことが、人手不足倒産を防ぐための最も現実的な道筋となります。
まとめ
人手不足倒産は、採用難と離職、長時間労働、生産性の低さが重なった結果として起こります。本記事で示したように、①採用力強化、②定着率向上、③生産性向上、④外部人材活用、⑤資金繰りと事業計画の見直しを並行して進めることが重要です。特に、現場の実態を把握したうえで人員計画と資金計画を連動させ、早い段階で金融機関や税理士、社会保険労務士、中小企業診断士に相談することで、打てる手は大きく広がります。今日できる小さな一歩から着手し、人手不足倒産を未然に防ぐ体制を整えていきましょう。
本記事で紹介した「8.1 直近3か月で確認すべき指標」をチェックするだけでも、貴社の現在地が見えてきます。
もし、「資金繰りのシミュレーション方法が不安」「DXと言っても何から入れればいいかわからない」といったお悩みがあれば、お近くの商工会議所や専門家(税理士・中小企業診断士)へ早めにご相談されることをお勧めします。


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